吸入麻酔薬の過剰投与による致死処分も、安楽殺の方法として容認されている方法です。しかし以前にも説明しましたように、日本における吸入麻酔薬による安楽殺の普及率は驚くほど低いのが現状です。吸入麻酔薬による安楽殺の欠点は、大量の麻酔薬が必要なことと、致死に時間がかかることです。もちろん、獣医師による処方が必要です。
その欠点を見事に解決したのが、平成21年にオープンした下関市動物愛護管理センターで導入された、「吸入麻酔剤リサイクルシステム」です。ガス室に動物を入れ、吸入麻酔薬(セボフルラン)を注入して安楽殺を行うわけですが、通常この方式をとると、尋常ではない量の麻酔薬が必要になります。そこで余った麻酔薬を回収してリサイクルすることで、環境にも配慮しながら人道的な安楽殺が実現するという世界初の方式(特許取得済み!)を導入したのです。その流れは下のとおりです。
①処分対象動物に,動物用処分装置から液化回収された吸入麻酔剤(主としてセボフルラン)をガス状で吸入させる.終始,酸欠状態にならない酸素濃度を保つ
②動物が苦悶苦痛を呈しない情況下で麻酔下(体動消失,意識消失)におき一定時間後に心停止を確認する.
③その後,余剰吸入麻酔剤(ガス状)を液化回収する.
④回収された吸入麻酔剤は水封で貯留し再利用する.
⑤吸入麻酔剤は液化回収装置から大気中に出さない(クローズドシステム)特許取得装置を用いる.
⑥リサイクルシステム設備工事費:約1 億円(処分装置を除く)
(日本獣医師会雑誌第64巻(2011)から引用)
付け加えると、リサイクルシステムの保守点検費用として年間約600万円かかります。特許を取得していますので、特許の管理費用も別途かかります。納税者を納得させることができるのであれば、なかなか素晴らしいシステムです。
このシステムは開業獣医師が主導で導入されたと聞いています。地元の開業獣医師の皆さんは「下関方式」を世界に発信する!と鼻息も荒かった(アピールのため、動物愛護団体にDMまで送っていたそうです)のですが、追随する動きは見られません。中核市に出し抜かれた山口県や、環境都市を標榜する隣の北九州市がなぜ飛びつかないのか?次回はその理由について考えます。