遺失物法の改悪

遺失物法において「逸走した家畜」は「準遺失物」として、民法第240条の規定が準用され、公告後3か月以内に所有者が判明しなけれれば、取得者が所有権を取得します。一方「その保管に不相当な費用又は手数を要するものとして政令で定める物」については、2週間以内に遺失者が判明しなければ売却できるとされており、政令ではそれを「動物」と定めています。つまり、飼い主のわからない動物を拾った人がそれを警察に届けると、公告し飼い主を探し、3か月経っても飼い主が見つからなければ、その動物は拾得した人のものになります。また保管が困難であれば、警察は2週間経過後に動物を売却することができます。

しかし平成18年の遺失物法の大改正の中で、信じられない改悪が行われました。拾得者は拾得した物件(もちろん準遺失物も含みます)を所有者に返還するか、警察署長に提出しなければならないと規定されているのですが、「動物の愛護及び管理に関する法律(昭和四十八年法律第百五号)第三十五条第三項に規定する犬又は猫に該当する物件について同項の規定による引取りの求めを行った拾得者」については適用しないとされたのです。

簡単に言うと、所有者が判明しない犬猫について、拾得者が動愛法の規定に基づき都道府県知事等に引き取りを求める場合は、遺失物法を適用しないとしたのです。警察署には動物を預かる設備も職員もいないので、その設備や職員が整った知事部局で収容した方が動物愛護上望ましいというもっともらしい理由で、知事部局に丸投げすることに成功したのです。私が「丸投げ」という表現をあえて使ったのには理由があります。つまり、所有者不明の犬猫に遺失物法を適用した上で、知事部局に保管を依頼することは可能であると私は考えるからです。ヒトとカネが不足している知事部局に、3か月間保管しろとは言いません。2週間経過後に、譲り渡しを希望する人に「売却」すればいいのです。正直それすら厳しい自治体も多いと思います。犬猫の業務を手放したい警察と、収容動物の増加を恐れる知事部局の利害が一致し、「動愛法に丸投げし、保管期間は各自治体に任せる」という改悪につながったのです。

遺失物法改正の際の国会質疑の中で、複数の議員から「この改正は殺処分の増加につながるのではないか」との懸念が示され、「安易に殺処分されることのないよう、都道府県等に対し、犬又はねこの取扱いの具体的な方法、要件等について統一的な基準を示すなど、動物愛護の観点から必要な措置を講ずること」という付帯決議がなされました。それから10年以上経ちますが、安易な殺処分はいまだに行われています。「統一的な基準」など示されていません。環境省は各種ガイドラインや抽象的な通知でお茶を濁しているつもりなのでしょうが、法的根拠のない抽象的な通知やガイドラインで行政は動きません。地方自治体は(国もそうでしょうが)財政再建の名のもとに、ゼニにならないことには冷淡です。しかし法的根拠があれば話は別です。予算を握っている人たちは、とにかく法的根拠を求めてきます。新規に予算をつけようとすれば、なおさらです。法制化や強制力のある指示があってはじめて、行政は重い腰を上げるのです。