バルビツレート(barbiturates:バルビツール酸誘導体)は、中枢神経系のGABAA受容体に作用する薬物で、麻酔薬、鎮静薬、睡眠導入薬、抗てんかん薬として用いられます。鎮痛作用はありませんが、脂質によく溶けるため、速やかに意識消失を起こすのが特徴です。過剰投与すると、意識消失後、中枢神経系への作用により心肺機能が停止し、結果的に脳機能が停止します。その性質を利用して、安楽殺薬としても用いられます。
主な種類は下表のとおりです。
「名称」は物質名です。一般的にNa塩やCa塩で用いられるものは、塩の名前で表示しています。「商品名」は日本の商品名です。「ソムノペンチル」のみ動物用医薬品ですが、すでに販売が終了しているため、動物用医薬品としてのバルビツレートは現時点で入手できません。そのため、人間用の医薬品が流用されています。
「主な投与経路」は説明書に書かれている主な投与経路です。「ラボナール」や「イソゾール」といった、いわゆる超短時間作用型のバルビツレートには、直腸内投与というオプションもあります。また動物用医薬品の「ソムノペンチル」は、動物によっては腹腔内投与も可能です。静脈内注射で用いられるのは、「ラボナール」「イソゾール」「ソムノペンチル」「アイオナール」の4種類です。また全身麻酔の用途に用いられるものには、「全身麻酔」の項に〇をつけています。
正確を期するために、AVMA Guidelines for the Euthanasia of Animals: 2020 Edition(2020年版米国獣医師会安楽死ガイドライン)の原文の該当部分を示します。
All barbituric acid derivatives used for anesthesia are acceptable for euthanasia when administered IV.
(麻酔に用いられる全てのバルビツール酸は、静脈内投与であれば安楽死の条件を満たす)
静脈内投与で麻酔に用いられるバルビツレートは「ラボナール」「イソゾール」「ソムノペンチル」のみです。AVMAのガイドラインには「セコバルビタールなども有用」と書かれていますが、セコバルビタールは麻酔には用いられません。もしかしたら米国では麻酔に用いられる?ということにしておきましょうか。
(8月17日追記)セコバルビタールは牛馬の安楽殺用の動物用医薬品「ソムロース」の成分として用いられているそうです。またオランダや米国ではペントバルビタールと共に、人間の安楽死薬として用いられているそうです。