ペントバルビタールNaが販売終了した理由

日本で唯一入手可能であったペントバルビタールNa製剤の「ソムノペンチル」(共立製薬)が2019年1月に販売終了しました。その理由を説明する前に、ペントバルビタールの歴史から始めます。

40代以上の方には「ソムノペンチル」よりも「ネンブタール」(大日本住友製薬)の方が通りがよいかもしれません。ペントバルビタールNa製剤の「ネンブタール」は動物用医薬品として、麻酔や安楽殺に用いられていましたが、製造工場の閉鎖により2007年に販売を中止し今に至ります。また医学領域ではペントバルビタールCa製剤の「ラボナ」が不眠症や鎮静などに用いられています。「ラボナ」は経口投与薬ですので、安楽殺には使えません(安楽殺前の鎮静には使えます)。「ネンブタール」に代わり「ソムノペンチル」が販売されていたことは前述のとおりですが、なぜ「ソムノペンチル」が販売終了したのでしょうか。

元をただせば、EU(欧州連合)の死刑廃止に遡ります。EU基本権憲章には、「何人も死刑に処されてはならない」との規定があり、EU加盟国はすべて死刑を廃止していて、死刑廃止がEUの加盟条件となっています。さらにEUは欧州のみならず、全世界的な死刑廃止にも取り組んでいます。その主な標的は、主要先進国(G7)でありながら死刑制度が残っている日本と米国です。日本と米国は死刑執行の方法が異なっていて、日本が絞首刑であるのに対し、米国は薬物を用いた安楽死です。その具体的な方法は、チオペンタールNaで意識を消失させた後に筋弛緩薬で呼吸を止め、塩化カリウムで心臓を停止させるという三段構えです。

2000年代の初めころから、EUは薬物による死刑を実施している国への、バルビツレートを含む死刑に用いられる可能性のある薬物の輸出を厳しく規制するようになりました。また欧州のメーカーが、死刑目的の薬物の出荷を拒否するといった動きも起こりました。ちなみにバルビツレートの主な供給元は、欧州の製薬メーカーです。そのあおりを受け、日本にもペントバルビタールNaが入ってこなくなりました。日本の死刑は絞首刑なので一見関係ないように思えますが、日本は国際的に米国の属国とみなされているので、米国へ流れることを恐れたのでしょう。

米国ではチオペンタールNaが入手できなくなり(米国内では製造されていません)、本来動物の安楽殺用だったペントバルビタールNaを代わりに使っています。米国内では「動物用医薬品なので質が悪く、投与後に苦しんでいた死刑囚もいる」という報道もありますが、本当なのでしょうか。