TNRの問題点

TNRを批判する意見もあります。動物権利団体「動物の倫理的扱いを求める人々の会」(PETA)の記事執筆者のAlisa Mullinsは、次の理由からTNRに反対しています。(https://prime.peta.org/2018/03/to-tnr-or-not-to-tnr-that-is-the-question/)

〇 屋内で飼われている猫の寿命が12~20年であるのに対して、野良猫の寿命は1~5年であり、また野良猫は感染症、交通事故、虐待などにより「悪い死」を迎える。アニマルシェルターにおける安楽殺は「良い死」である。

〇 所有者不明の猫をシェルターに収容しなければ、飼い主への返還のチャンスが失われる。

〇 野良猫は小鳥や小動物などの在来動物に影響を与える。猫はたとえ給餌が行われていても、本能から動物を襲う。ネズミ駆除のために野良猫が必要だと主張する人たちは、この視点に欠けている。

〇 TNRによって猫が保護されるという認識が、捨て猫を誘発する。またTNR猫のコロニーに設置された餌場は、関係ない猫や野生動物を誘引する。

以上のことから彼女は「TNRは猫ではなく、人間の気分を良くする」と切り捨て、野良猫はシェルターが収容するべきで(PETAはシェルターにおける安楽殺-ペントバルビタールNaの静脈注射に限る-を「良い死」として容認しています)、シェルターは引取り拒否や「避妊去勢後の猫の遺棄」を行うべきではないと述べています。また野良猫を増やさないためには、すべての猫に不妊去勢手術・ワクチン接種・マイクロチップ埋設を実施し、飼育を登録制にし完全屋内飼育を義務づけるといった根本的な対策が必要と述べています。

 

また米国の一部の獣医師は、次の理由でTNRに反対しています。(https://hahf.org)

〇 野良猫は狂犬病やトキソプラズマなどの人獣共通感染症の媒介者である(のらぬこ注:米国は狂犬病常在国で犬からよりも猫からの感染例が多いので、TNRも命がけです)。

〇 野生動物への影響

〇 野良猫は陰惨な最期を迎える

〇 Returnは猫の「遺棄」にあたり、違法である。

〇 そもそもTNRで野良猫が減ったという明確な報告はない。

 

私は獣医師として概ねこれらの意見に賛同しますが、日本におけるTNRに反対はしません。獣医療行為としての安楽殺(もちろんペントバルビタールNaによる)すら「殺処分」として糾弾されるわが国で、野良猫の収容数を減少させ、ひいては行政機関における見た目の殺処分数を減少させることができ、かつ世論がそれをよしとするのであれば、TNRの推進は公務員獣医師として悪い話ではないと私は思っています。

 

(8月28日追記)

上記のTNRへの反対意見はPETAのWEBページに掲載された記事ではありますがAlisa Mullins氏の個人的見解であり、PETAは野良猫を野に置くことには反対としながらも、飼い猫同様の管理など厳しい条件付きでTNRを容認しています。お詫びして訂正いたします。