「地域猫」よりもTNRMを

TNRの効果はさておき、本来動物管理機関に収容すべき野良猫を野に置くことにより、また子猫の出産を防ぐことにより、野良猫の収容数ひいては【行政機関による】殺処分の減少につながることは確実です(野良猫を野に置くことの問題点については、すでに述べています)。

つまり【行政機関による】殺処分を減らすことを目的とするならば、「地域の合意」を待たずにTNRM(Trap-Neuter-Return-Monitor:TNR後の猫の監視を続ける活動)を積極的に実施すべきです。日本動物愛護協会日本動物福祉協会といったTNRの手術費用への助成を行っている団体は、ボランティアからの申請を受け付けていますし、TNR実施団体のどうぶつ基金は「TNR先行型地域猫」(「地域の合意」を待たずにTNRを先行して行う)を推進しています。いずれの団体もTNR後のモニタリングの必要性を強調しています。

地方自治体の中にも正式な「地域猫」にこだわらないところが出てきています。浜松市は「地域猫」という言葉を使っていますが、必ずしも「地域の合意」を求めず(このあたりをうまくぼかしています)ボランティアからのTNR手術費用助成を受け付け、その後の管理(地域への説明を含め)を「浜松市野良猫との共生推進協議会」がサポートするというシステムです。また山口市は正式な「地域猫」だけではなく、ボランティアによるTNRにも助成を行っています。

環境省も認めているように「地域猫活動」は野良猫を減らすための活動ではなく、野良猫問題を環境問題として地域全体で取り組ませるための活動です。その目的は、野良猫を「地域の飼い猫」にすることにより、野良猫問題を地域の環境問題に矮小化し、ゆくゆくは地域に丸投げすることにあります。「地域猫活動」はTNRMの亜型ですが、いかにも日本の行政が好きそうな、贅肉がたっぷりついたシステムです。地域の合意に時間がかかり、地域の分断を招きかねない「地域猫活動」よりも、ボランティアがTNRMを行い、行政がサポートするといった「行政介入型TNRM」をスピード感をもって行うことで、【行政機関による】殺処分の減少という成果を出すことができると私は考えています。

そして本当に野良猫を減らしていくためには、TNRMと同時進行で野良猫の譲渡活動を行う必要があります。環境省が示す地域猫活動のメニューの中に「野良猫の譲渡」があるのはそのためです。TNRMは野良猫への餌やりを伴うため、地域住民とのトラブルが起きる可能性がありますが、野良猫を保護し譲渡することに文句を言う人はほとんどいないでしょう。もちろん、野良猫の中には性格的に問題があったり、FIV(いわゆる猫エイズ)のキャリアなど、譲渡が難しい(不可能ではありませんが)個体も存在するので、そういう個体は野に置き、天寿を全うするのを待つしかないのでしょう。