「駆除」と「殺処分」

イノシシやクマが住宅地に出現し、猟友会によって銃殺されたというニュースを時折見かけますが、それは「有害鳥獣の駆除」であって、決して「殺処分」ではありません。その違いについて説明します。

動愛法にはこう規定されています。

 

第四十条 動物を殺さなければならない場合には、できる限りその動物に苦痛を与えない方法によつてしなければならない。

2 環境大臣は、関係行政機関の長と協議して、前項の方法に関し必要な事項を定めることができる。(以下略)

 

ここでいう「動物」は、野生動物を含むすべての動物を指します。「動物を殺さねばならない場合」に該当し、「できる限りその動物に苦痛を与えない方法」であれば、動物を殺すことは容認されます。そして「必要な事項」を定めているのが「動物の殺処分方法に関する指針」ですが、ここで対象になっているのは「保護動物」だけです。野にいる野生動物は入りません(いったん収容された野性動物は「人が占有している」とみなされるので「保護動物」に該当します)。つまり野にいる野生動物は「指針」が適用されません。安楽殺として認められない「銃撃」や「止めさし」が、野にいる野生動物には容認されるのです。

環境省が所管する「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」(平成十四年法律第八十八号)の規定では、「増えすぎた野生動物の個体数調整」「生活環境や農林水産業への被害防止のための駆除」などの目的であれば、都道府県知事等の許可を受ければ、猟銃やわなを用いた野生動物の「捕獲」が認められています。住宅地に出現したイノシシやクマの「捕獲」もこれです。「許可捕獲」は趣味の「狩猟」とは区別されますが、多くの場合、狩猟免許を持つ狩猟者の団体である「猟友会」が許可を受けています。野生動物の捕獲は誰かがやらなければならない仕事です。狩猟者はそこにボランティアで駆り出され、動物愛護者から非難を受けるのです。

狩猟の是非についてはここでは論じませんが、狩猟は野生動物捕獲の方法として社会的に容認されており、狩猟者の活用は合理的といえます。特に緊急時には、銃撃による駆除もやむを得ないと考えられます。人がクマに襲われているのに、律儀に安楽殺の手順を踏むことは非現実的です(なぜ麻酔銃が使えないのかという議論もありますが、別の機会にしましょう)。「指針」においては「殺処分=安楽殺」であることが求められています。環境省は「殺処分」と「駆除」を使い分けることで、動物愛護と狩猟文化の折り合いをつけていると、私は理解しています。もちろん狩猟においても「できる限りその動物に苦痛を与えない」ことは前提です。