米国において、アニマルシェルター職員の離職率が高いのは周知の事実です。特に「動物を助けたい」という強い気落ちを持った人ほど、現実に落胆して退職してしまうといいます。その大きな理由が安楽殺であることは言うまでもありません。譲渡を目標に、手塩にかけて世話してきた動物を安楽殺しなければならないストレスは、おそらく経験者にしか理解できないでしょう。
ArlukeとSanders(1994)は、これを“Caring-Killing Paradox”(世話と殺害のパラドックス)と呼びました。そしてReeveら(2006)は、米国のアニマルシェルターにおける安楽死実施者のストレスの実態について調査を行い、“The Caring-Killing Paradox: Euthanasia-Related Strain among Animal-Shelter Workers.”(「世話と殺害のパラドックス:アニマルシェルター職員に蔓延する安楽殺関連ストレス」)と題した論文でこう結論付けています。
The current study represents the first quantitative investigation of the psychological ramifications of euthanasia-related work. Results indicate that perceived euthanasia-related strain is prevalcnt among shelter employees and is associated with increased levels of general job stress, work-to-family conflict, somatic complaints, and substance use; and with lower levels of job satisfaction. Analyses provide evidence that euthanasia-related work has a significant negative relation with employee well-being independent of its relation with generalized job stress. Exploratory analyses also suggest that individual, work, and organizational ditrerences may influence the level of perceived stress and appear to be associated with certain aspects of employee well-being. The need for future research of this topic and its relcvance to a wide range of applied psychologists is discussed.
本研究は、安楽殺に関連した仕事の心理的影響を初めて定量的に調査したものである。その結果、安楽殺に関連したストレスがシェルターの職員の間で蔓延しており、一般的な仕事上のストレス、仕事と家族の葛藤、身体的不満、薬物使用の増加、仕事の満足度の低下と関連していることが明らかになった。分析の結果、安楽殺に関連した仕事は、一般的な仕事のストレスとの関係とは無関係に、従業員の幸福度と有意な負の相関があるという証拠が得られた。また、探索的データ解析では、個人、仕事、組織の違いが知覚されたストレスレベルに影響を与え、従業員の幸福度の特定の側面と関連しているように思われることも示唆している。このトピックの今後の研究の必要性と、幅広い応用心理学への関連性について議論した。