安楽殺に対する個人的な反応

前回に引き続き、“Shelter Medicine for Veterinarians and Staff, Second Edition”(2013)の「安楽殺」の章を参照します。※あくまでも米国の話ですが、基本原理は日本も変わりません。

 

安楽殺関連ストレスの原因を簡単にまとめると次の通りですが、これに限定されません。

安楽殺技術者には、怒り、欲求不満、敗北、いらいら、罪悪感、悲しみ、後悔などの感情が現れるかもしれません。これらの感情は、実施者の生活の他のストレスの多い側面、たとえば家族との関係や、離婚、引越し、家族の病気などのさまざまなライフイベントによって悪化する可能性があります。

安楽殺関連ストレスを和らげるために、一部の技術者によって行われている不適切な対処方法には、動物を持ち込む者への罪悪感や不満を押し殺す、欠勤、反抗、動物への八つ当たり、薬物乱用、引きこもり、拒否、受動的な攻撃行動、演技、幻想が含まれます。慢性、重度、または自殺を引き起こすうつ病も起こり得ます。シェルターから入手したペントバルビタールナトリウムを用いた職員の自殺や自殺未遂の事例は珍しくありません。退職し、この分野から一切手を引くこともよくあります。 

適切な方法は、安楽殺技術者がストレスに対処するのに役立ちます。この中には、利他主義、昇華、期待、およびユーモアが含まれます。シェルターが地域社会と協力する態度を育てることは、動物にとって前向きな解決策を見つけるために協力するという感覚を生み出すのに役立ちます。飼い主からの動物の引取りも、その背景には様々な理由があることをシェルター職員によく説明するがあります。そのような理解は思いやりを促進し、不満を発散させます。定期的な身体運動、趣味、スポーツ、または動物保護とは関係のない他の活動に従事し、安楽殺されるかもしれなかった動物をシェルターから引き取り、家に迎える、安楽殺を取り巻く複雑な問題や感情を理解できる職員、友人、家族と公然と話す、すべて前向きな対処方法です。

とはいえ、安楽死とそれが引き起こすストレスについて話すのにふさわしい人を見つけるのは難しいのも現実です。安楽殺技術者へのカウンセリングは有効かもしれませんが、安楽殺固有のストレス要因とシェルターの仕事の両方に精通している専門のカウンセラーが実施する必要があります。シェルターにおいて安楽殺技術者を監督する立場にある人は、スタッフの燃え尽き症候群や感情的ストレス、共感疲労の兆候を認識するための研修を受け、それに対処するためのリソースを提供する準備が必要です。

 

※安楽殺技術者…日本の動物管理機関で安楽殺を実施するのはほとんど獣医師ですが、米国のアニマルシェルターにおいては、安楽殺を実施するのは獣医師よりもむしろ動物看護師等の獣医療技術者です(獣医師がいないシェルターもあります)。