動物病院とシェルターの安楽殺

欧米ではペットの安楽殺は一般的な獣医療です。高齢であったり、衰弱していたり、重篤な病気やけがで回復の見込みがなく、これ以上動物を苦しめたくないと飼い主が判断した場合、動物病院にて実施されます。医療費が払えない人は、アニマルシェルターに安楽殺を依頼することもあります。

動物病院における安楽殺は、飼い主または家族が同伴し、1日に1~2頭実施するのが一般的です。多くの場合、動物に対して十分な獣医療が提供された結果、安楽殺を慎重に選択し、実施前には関係者全員に対するカウンセリングが行われます。

一方アニマルシェルターは、日常的に複数の動物を安楽殺させています。その中には、新生児や健康な若い動物、野犬や野猫、馴れていない、非社会的、攻撃的(ただし身体は健康)、重度の衰弱、病気、または負傷動物などが含まれます。多くの場合、シェルターで安楽死させられる動物の気質、病歴、または以前の生活経験についてはほとんど知られておらず、そのような安楽殺を行う人は動物の取り扱いと動物の行動信号の解釈に関する特別な訓練を受けなければならず、動物病院における安楽殺よりも注意を払わなければなりません。さらに実施者には“Caring-Killing Paradox”といったストレスも発生します。

シェルターにおける安楽殺のもう一つの問題は、手続きの合法性です。動物病院においては、所有者または飼い主の許可が得られれば安楽殺を実施できます。しかしシェルターにおいては収容された動物の所有権に関わらず、動物の苦痛を終わらせるために安楽殺を実施する必要が生じてきます。その場合は安楽殺に至った理由を詳細に記録する必要があり、場合によっては獣医師による陳述を求められることがあります。

米国の動物病院ではペントバルビタールNaの静脈内(IV)注射によって動物を安楽殺させることが最も多く、安楽殺の前に動物を鎮静または麻酔するために必要なすべての機器および薬物を無制限に使用することができます。開業獣医師は、心臓内(IC)または腹腔内(IP)注射などのペントバルビタールNaの他の投与経路、または炭酸ガス吸入などの安楽殺の他の方法を使用することはほとんどありません。

そもそも安楽殺の実施方法に関する正式な訓練を受けている獣医師はほとんどいません。米国では変わりつつありますが、ほとんどの獣医学のカリキュラムはペントバルビタールNaの薬理効果についてのみ講義し、ペットロスのカウンセリングのトレーニングを提供します。特定の安楽殺の技術と方法、ならびに安楽殺前の化学的および物理的拘束などの補助的技術は、正式な獣医学カリキュラムではめったに教えられません。米国ではシェルターメディスンの一環として教育の機会もあるでしょうが、少なくとも日本の獣医師は、業務として安楽殺に携わることになってはじめて、安楽殺の方法を学ぶのです。