動愛法には違反者に対する「勧告」や「命令」の規定に加え、罰則規定も設けられています。我々行政マンにとっては当たり前の話なのですが、よく分からない方が大多数と思いますので、行政指導から告発への流れについて、簡単にお話しします。
例えば、犬の繁殖業者(第一種動物取扱業のうち「販売業」)において、繁殖犬の不適切な取り扱いが行われているという情報が担当部局に入ったとします。都道府県知事は、あらかじめ指定して身分証を持たせた職員に、施設を立入検査させ、業者に対して報告を求めさせる権限を持っています(24条1項)。ただしこの立入検査の権限は「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」(24条3項)のであって、あくまでも適切に運用されているか否かを調査するための権限です。
立入検査の結果、犬の取り扱いにおいて環境省令や条例で定める基準が順守されていないと認められた場合、都道府県知事は業者に対し、期限を定めて改善を勧告することができます(23条1項)。業者が正当な理由なく期限内に勧告に従わなかった場合、都道府県知事はその旨を公表することができ(23条3項)、また期限を定めて勧告に係る措置をとるよう命ずることができます(23条4項)。ちなみに「期限」は原則3か月以内です(23条5項)。それでも業者が命令に従わない場合、都道府県知事は業者に対し、登録取り消しや業務停止を命ずることができます(19条)。ここまでが、警察権がなくても行使できる「行政処分」です。
ここまでやっても業者が従わない場合、「動愛法第19条第1項に基づく業務停止命令違反」で業者を警察に告発します。警察は告発を受理してしまうと捜査しなければなりませんから、簡単には受理してくれません。たとえ警察が告発状を受け取ったとしても、単なる「預かり」で結局不受理ということもあります。しかし告発までに至る過程において、すでに業者の所業については公表されていますし、行政命令に従わなかったというのは純然たる事実ですから、警察も受理せざるを得ないでしょう。
警察が告発を受理すると捜査を行い、違反の事実を確認します。事実確認後、業者の身柄は検察に送検されます。検察官が起訴相当と判断すれば、業者が起訴されます。「動愛法第19条第1項に基づく業務停止命令違反」の最高刑は100万円以下の罰金刑ですから(46条3項)、業者が了承すれば、略式手続によって100万円以下の罰金刑が確定します。
これが一般的な、行政指導から告発への流れです。もちろん立入検査の際に職員が明らかな虐待行為を現認すれば、動愛法第44条第2項に基づき告発することは理論上可能ですが、通常はまず行政指導です。