イントロダクション1 アニマルシェルターとは何か

洋の東西を問わず、少なくとも先進国においては、犬猫の安楽殺の多くはアニマルシェルターで行われます。だからといって、アニマルシェルターが安楽殺のための場所であると決めつけるのは早計です。アニマルシェルターはあくまでも動物を生きたまま解放(「ライブリリース」)するための施設であり、その過程において安楽殺も発生するというのが正解です。そこで、「結果的に安楽殺が発生する場所」としてのアニマルシェルターについての理解を深めていただくため、アニマルシェルターを核とした獣医療としての「シェルターメディスン」について、思いついたことを書いてみようと思います。

シェルターメディスンについて説明する前に、そもそもアニマルシェルターとは何かということを考えてみましょう。アニマルシェルターを一言で定義するならば「何らかの理由で保護が必要となった動物を、一時的に収容する施設」と言えるでしょう。日本で言うならば、行政が設置している動物愛護管理センターや保健所の犬抑留所、民間団体が設置しているアニマルシェルター(必ずしも専用施設だけではなく、民家を改装してケージを設置したようなものも含まれます)、場合によっては個人の預かりボランティアなど、かなり広い概念としてとらえていただいて結構です。

日本が明治維新を迎えた19世紀半ば、欧米にはすでに「人道的」アニマルシェルターが存在していました。それらの運営母体は(R)SPCA(「英国」動物虐待防止協会)やASPCA(米国動物虐待防止協会)、米国各地に設立されたSPCA、そしてHSUS(全米人道協会)などの民間団体でした。

もちろん、それ以前にも野良犬を収容するための「dog pound(犬収容所)」は存在しました。かつて米国には、迷子になった牛や豚などの家畜を一時収容して、飼い主に返還する際に手数料を徴収するビジネスが存在しました。都市化の進展により、それらの収容所は犬の収容所に衣替えしました。しかし牛や豚と異なり、犬は飼い主が見つからなければ売ることも食べることもできず、ただ殺すしかありませんでした。犬の収容はビジネスとして割が悪く、行政機関が収容所を設置することもありました。そこにおける犬の扱いはおせじにも良いとはいえず、見かねた動物愛護団体は設置主体に改善を求めたり、場合によってはその運営に参画したり、代わりの収容施設を設置したりしました。こういう流れがあるので、米国には公営(郡や市)と民営のアニマルシェルターが共存しているのです。公営のアニマルシェルターがない地域では、民営のアニマルシェルターが行政手続業務を請け負っている場合もあります。

※米国の「郡」は日本の「県」に相当します。