シェルターメディスンの基本概念2 動物福祉

シェルターメディスンは米国発の学問なので、動物の健康だけではなく、animal welfare(動物福祉※)の担保も求められます。動物を単に生かしておくだけではダメなのです。

動物福祉の定義は、「人間による動物の一定の利用を認めながら、生きている間は人道的に扱う」ことです。例えば、動物福祉は肉食を否定しません。肉食は「人間による動物の一定の利用」とみなし、家畜を最終的には殺して食肉にするとしても、生きている間は人道的に扱い、人道的な方法でと殺しなければならないという考え方です。

1965年に英国政府のBrambell委員会によって提唱された、動物福祉の「憲法」ともいえるいわゆる「5つの自由」は、正式には「Five Freedoms for farm animal welfare」(畜産動物福祉のための5つの自由)というタイトルで、元々は畜産動物の人道的取り扱いについて述べられていました。それが、人間が愛玩動物や実験動物を含む、全ての動物を利用する際の5原則となったのです。

「5つの自由」の各項目については上に挙げたとおりです。日本語訳については訳者によって若干異なりますが、おおむねこういう意味です。“Freedom to express normal behavior” がわかりにくいかもしれませんが、例えば鳥が飛ぶなど、その動物にとって当たり前の行動をとることができるような環境を提供するということです。

シェルターにおける動物の管理は、「5つの自由」に基づいて行われます。つまり、常に新鮮な食事と水を与え、隠れ家や寝床を含む快適な環境を提供し、けがや病気の動物への速やかな処置、その動物にとって当たり前の行動をとることができるようにし、常に状況を確認し苦痛を取り除く処置を行う必要があります。逆に言うと、「5つの自由」を満たすことができるようなケアを提供できる状態が、シェルターの適正収容数であるといえます。それはシェルターの規模やケージの数だけで決まるものではなく、ケアを提供する人の数やスキルにも左右されます。

そして「5つの自由」が満たされない場合、それは「死よりも過酷な生」とみなされます。「5つの自由」が満たされなければ、満たされるよう最大限の努力を行うのは当然のことですが、どうしても満たされない場合、例えば重度のけがや病気でどうしても苦痛を取り除くことができない場合、安楽殺を選択し苦痛から解放する必要が出てきます。実はこれが隠された「6つ目の自由」としての「安楽殺の自由」です。苦しませるくらいなら安楽殺を選択するというのが欧米の考え方ですが、日本人にとってこれを理解するのはなかなか難しいようです。

 

※ animal welfareを「動物福祉」と訳すことには異論もありますが、ここはそれを論じる場でもありませんし、一般的に通りがよい「動物福祉」の語を使います。