アニマルシェルターにおける感染症対策2 シェルターでよくみられる感染症

アニマルシェルターで問題になる感染症には、2つの視点があります。ひとつは多数の動物が収容されるシェルターという環境で問題になる感染症、もう一つはスタッフを介して公衆衛生上の問題を引き起こす人と動物の共通感染症(zoonosis)です。シェルターで問題になる感染症および病原体について、名前だけ挙げておきます。

 

消化器疾患

犬ジステンパーウイルスは呼吸器、消化器、神経系などに、様々な症状を引き起こします。神経症状がある場合、狂犬病との鑑別が必要です。犬に重度の腸炎を引き起こす犬パルボウイルス(CPV)は、シェルターの子犬でしばしば問題になります。猫の腸コロナウイルス(FECV)は、猫に軽度の下痢を起こしますが、ウイルスの変異株がしばしば致死性の猫伝染性腹膜炎(FIP)の原因になります。猫パルボウイルスは、猫の汎白血球減少症を引き起こします。

カンピロバクター属菌クロストリジウム属菌サルモネラ属菌は、犬、猫、人間を含む多くの哺乳類に腸炎を引き起こします。クリプトスポリジウムジアルジアコクシジウムトリコモナスといった原虫の犬や猫に下痢を起こします。トキソプラズマはまれに猫に症状を示しますが、どちらかといえば公衆衛生上の問題を起こします。回虫鉤虫も、犬や猫の下痢の原因になります。

 

呼吸器疾患

犬アデノウイルス-2(CAV-2)犬パラインフルエンザウイルス犬呼吸器コロナウイルス(CRCoV)は、犬の感染性呼吸器症候群(CIRDC:「ケンネルコフ」)の原因とされています。犬インフルエンザウイルスは咳や発熱を引き起こし、感染した犬は急死することもあります。猫カリシウイルス猫ヘルペスウイルス-1(FHV-1)Chlamydophila felisは、シェルターでしばしば問題になる、猫の上気道感染症(URI:いわゆる「猫かぜ」)の原因とされています。ボルデテラは犬のCIRDCおよび猫のURIの原因菌のひとつです。マイコプラズマは肺炎の原因菌ですが、特に猫に結膜炎を引き起こします。

 

皮膚感染症

ヒゼンダニによって引き起こされる疥癬は、おもに犬で問題になりますが、猫や人にも感染します。ニキビダニはほとんどの犬が保有していますが、免疫力が低下した犬や猫に毛包虫症を引き起こします。人にも感染する犬や猫(特に猫)の皮膚真菌症(白癬)は、シェルターの悩みの種です。ノミダニ耳ダニもシェルターではよく見られます。

 

その他

猫免疫不全ウイルス(FIV:いわゆる「猫エイズウイルス」)や猫白血病ウイルス(FeLV)は、猫で問題になるレトロウイルスです。症状がなくても、ウイルスを保持している猫(キャリア)については飼養や譲渡の際に配慮が必要です。

 

シェルターで注意すべきzoonosisとしては、猫引っかき病(バルトネラ症)、ブルセラ症、カンピロバクター症、レプトスピラ症、ペスト、狂犬病、皮膚真菌症(白癬)、回虫の幼虫移行症、サルモネラ症、疥癬、トキソプラズマ症などがあげられます。