アニマルシェルターにおいては、感染症の簡易検査キットが多用されていますが、その判定結果は迅速な治療方針に影響するばかりではなく、結果によっては安楽殺も検討される重要事項です。そのため、検査キットの精度は非常に重要です。
検査の精度は「感度」と「特異性」で決まります。簡単に言うと、感度とは「感染している動物のすべてを陽性と判定する能力」、特異性とは「感染していない動物のすべてを陰性と判定する能力」です。言い換えると、感度が高い検査ほど偽陰性(本当は陽性なのに、陰性と判定されてしまう)は少なく、特異性が高いほど偽陽性(本当は陰性なのに、陽性と判定されてしまう)は少なくなります。感染の有無を正確に判定できているか否かの指標が、陽性/陰性予測値です。予測値は疾病の感染率(頻度)に影響を受けます(後述)。
メーカーが示している感度や特異性のデータは、ほとんどの場合実験室のデータですので、実際の現場には当てはまらない場合があります。例えば、実験室で濃厚感染が誘発された動物は頻度が高い(=感染率が高い)ため、陽性予測値が高めに出ますが、必ずしも頻度が高いとは言えない実際の現場においては、思うような結果が出ないことがあります。また、検査キットの原材料の変更により検査制度が変わる可能性があります。感度や特異性が高い検査として実績があったとしても、対象微生物の変異により、検査精度が低下する可能性があります。
特定の検査キットの信頼性を評価するときは、教科書、権威あるWebサイト、専門家や同僚の経験も考慮に入れる必要があります。しかし最終的には、検査結果の解釈は臨床的な判断によります。どう考えてもおかしい検査結果、例えば正しくワクチン接種された、見た目健康な成犬のパルボウイルス陽性結果などは、他の検査で確認するべきです。複数の評価方法に照らして検査母集団と解釈を注意深く選択することにより、検査結果の信頼性が向上します。また別の手法で複数の検査を行う、異なるメーカーの検査キットを併用するなど、複数の検査の結果を組み合わせることによって、検査の特異性を向上させることができます。
感染症の診断は、検査の質と同様に検体の質にも依存します。動物の選択、採材のタイミング、検体の種類や場所、検体の保管条件など、採材や輸送にも配慮が必要です。
<感度、特異性、頻度、および予測値の例>
感度90%、特異性95%の架空のFIV検査キットがあるとします。健康状態が不明で、FIV感染の頻度1%の猫1000頭にこの検査を実施します。頻度1%ということは、1000頭のうち本当にFIVに感染している猫は10頭です。感度が90%なので、10頭のうち9頭が陽性と判定されます。特異性が95%ということは、本当は感染していない990頭のうち、約50頭(正確に言うと49.5頭)が陽性と判定されます。つまり陽性予測値(PPV)は9/59 = 0.15(15%)、陰性予測値(NPV)は940/941 = 0.9989(99.89%)となり、この検査において陰性結果は信用できますが、陽性結果はあまりあてにならないということになります。同じ検査を、感染が疑われる(つまり頻度が高い)集団に限って行えば、PPVはもっと上昇します。