野犬が多いことで全国的に有名な西日本の某県には「なぜ薬物を使って捕獲しないのか」とのクレームが入っているそうです。
睡眠薬または劇・毒薬により野犬を駆除することを直接に規制する法令はないが、これが実施については、狂犬病予防法(昭和25年法律第247号)第18条の2の規定の趣旨からみて慎重にとりあつかうべきである。また、地方公共団体がこれを実施する場合、住民の権利を制限し、義務を課するものであれば条例による必要がある(昭和41年10月26日付自治行第112号:福岡県への照会回答)
「狂犬病予防法第18条の2の規定の趣旨」とは、犬の薬殺は「野犬の捕獲が極めて困難である場合の最後の非常手段(昭和29年10月26日付衛乳第49条:愛媛県への照会回答)」であり、安易に行うべきではないということです。
薬殺に用いる薬物は、「硝酸ストリキニーネ」(狂犬病予防法施行規則第17条)と定められています。この薬物は安楽殺薬ではありませんし、体が硬直し見た目にもえげつない死に方をします。もし日本に狂犬病が上陸して、狂犬病を発症した野犬が大量発生し、国民の生命が脅かされる事態が生じた場合の最終手段としてはやむを得ないと思いますが、平時の野犬捕獲に用いるべき薬物ではありませんし、用いたとしたら炎上必至です。昔(といっても数十年前の話ですが)は普通に薬殺による野犬駆除が行われていましたし、体を硬直しながら息絶える犬を見たこともあります。
硝酸ストリキニーネほどの毒薬でないにしても、ブロバリンなどの睡眠薬を餌に混ぜて食べさせることは、前回に述べたとおり投与量が難しく、効かないからといって増量すると致死量に達してしまう危険性があります。つまり「最悪、死んでしまってもよい」と割り切らないと使えないのです。もちろんそれは安楽殺ではありませんし、近所の人の目もあります。また、食べさせた犬を見失ってしまい、嘔吐などされてしまったら、それを食べたほかの動物に影響を与えてしまいます。そのため、現在において睡眠薬の経口投与による野犬の捕獲はあまり行われていません。
代わりに行われているのが麻酔銃や吹き矢による捕獲です。麻酔銃はいろいろとハードルが高いので、吹き矢が一般的です。麻酔銃や吹き矢に用いられる不動化薬には、通常ケタミンとキシラジン、もしくはケタミンとメデトミジンの組み合わせが用いられますが、ケタミンが麻薬指定を受けているため、麻薬取扱者の免許が必要です(たとえ獣医師であっても、勝手に使えません)。