アニマルシェルターは感染症が起こりやすい場所です。それは、病歴やワクチン接種歴が不明の動物が集まってくること、そして収容というストレスで免疫力が低下するからです。その中には、人間にも感染する「人畜共通伝染病」※もあります。人畜共通伝染病に罹患した動物が譲渡されると、公衆衛生上の問題が生じます。そのため、行政による犬猫の譲渡が広く行われるようになった平成5年に、厚生労働省は「ペット動物(犬及び猫)の引取り、譲渡等における人畜共通伝染病の動物から人への感染予防対策について」(平成5年8月4日 衛乳第170号)を発出して注意喚起を行いました。この通知の「ペット動物」は「動物管理センター等に収容された犬及び猫」を指します。
1 ペット動物の引取りにおける措置等について
(1) ペット動物を引き取る場合は、その所有者から獣医師による人畜共通伝染病感染の有無の診断を受けているか否か、またね診断を受けている場合はその結果を聴取し、当該ペット動物が人畜共通伝染病に感染している場合は、他のペット動物への感染予防措置を講ずること。
(2) 人畜共通伝染病に感染しているペット動物を輸送した車両等については、必要に応じて消毒等の措置を講ずること。
所有者からの引取りの場合、病歴について所有者から聞き取ることは絶対に必要です(所有者が正直に話すか否かは別問題ですが)。
2 狂犬病予防法に基づき抑留した犬の措置について
(1) 狂犬病予防法に基づき抑留した犬においては、狂犬病予防員により、人畜共通伝染病感染の疑いの有無を判断し、当該ペット動物が人畜共通伝染病の疑いがある場合は、輸送車両内での他のペット動物への感染予防措置を講ずること。
(2) 人畜共通伝染病に感染した疑いのある犬を輸送した車両等については、必要に応じて消毒等の必要な措置を講ずること。
ここで「狂犬病予防法に基づく抑留」が特出しされている理由については、多少説明が必要かもしれません。「ペット動物の引取り」については、特に必要な資格はありません。一般行政職の職員が受け入れてもかまいません。ですので、受け入れ時の健康チェックまでは求められず、所有者からの聞き取りを求めているわけです。所有者不明の動物の受け入れについてスルーしているのもそのためです。
しかし「狂犬病予防法に基づく抑留」および抑留された犬の管理は狂犬病予防員、すなわち獣医師が行うよう定められています(捕獲人の使用は認められていますが、狂犬病予防員による指揮命令が必要です)。つまり獣医師なのだから病気の診断くらいはできるだろうというわけです。公衆衛生獣医師であっても、感染症の診断技術を求められているわけです。
※zoonosisの訳語は様々ですが、ここでは厚労省通知で用いられている「人畜共通伝染病」に統一します。