「適正譲渡」とは何か

動物の譲渡の際の説明事項や注意事項などについての規定を見てきましたが、実際に譲渡を実施する際の具体的方法については特に定められていません。とはいえ、譲渡の手順については定型化されていて(例えば、環境省のパンフレット「譲渡でつなごう!命のバトン」を参照)、行政・民間を問わず同様の手順で実施されています。

環境省は各種印刷物により、少なくとも自治体による譲渡には「適正譲渡」を求めています。環境省の「動物の適正譲渡における飼い主教育」によると、「単に譲渡数を増やすことだけではなく、適正な譲渡を行い、地域の模範的な飼い主を増やし、ひいては行政に引き取られる動物の数と、その殺処分数の減少につなげること」が譲渡事業における重要事項としています。そのうえで、「収容される動物を減らす」「適正な飼養者を増やす」「適性ある動物を譲渡する」「不妊去勢手術を徹底する」ことが適正譲渡の4つの柱とされています。適正ではない譲渡を進めると、「不適正飼養者の増加」「収容動物、処分数の増加」「事故や公衆衛生問題の発生」を招くので、「ただ単純に譲渡すればいい」わけではないとのことです。特にそのことに異議はありません。

適正譲渡のためには、動物の適性評価が必要です。適性評価が必要な理由として、環境省はこう述べています。

 

・ 現在の収容頭数から考え、すべてを救えない現状があるならより適性のある動物から、より多くを救う努力を……

・ 攻撃行動があるなど、リスクのある動物を社会に送り出すわけにはいかない

・ 立場上、譲渡先を選べない場合もあり、安全策を講じる必要がある

(「動物の適正譲渡における飼い主教育」6ページ)

 

行政機関は動物の受け入れを拒むことはできませんし、正当な手続きで譲渡を申し込んだ人への譲渡を拒むことも困難です。当然行政機関がリスクを負うわけにはいきません。私も公務員ですので、それは重々承知していますが、この文面からは「収容数が増えたら、殺処分で調整すればいい」という安直さが透けて見えるのです。意地の悪い言い方をすると、殺処分を正当化するために、適性評価のハードルを上げることも可能なのです。「適正譲渡」ひいては「適性評価」が殺処分の拠り所になってしまっていることが、日本の動物愛護管理行政の問題点なのです。私は必ずしも「適正譲渡」に反対するわけではありませんし、推進すべきと思っています。しかし「適正譲渡」の名のもとに譲渡対象動物を選別し、結果的に多くの動物が殺処分されるようであれば、それは違うと思います。

以前にも述べたように、譲渡適性は動物の状態ではなく、自治体の都合で決まります。それはおかしいというところから、話を始めるべきではないでしょうか。