譲渡数を増やすための譲渡

少なくとも行政機関は「適正譲渡」ではない「単に譲渡数を増やすための譲渡」を行うべきではないというのが環境省のスタンスですが、殺処分数を減少させるために、やむなく「譲渡を増やすための譲渡」を行っている自治体が存在します。その自治体はホームページでも公言しているので、名前を出しても差支えはないとは思いますが、ここでは「自治体X」としておきます。

かつて自治体Xは、各保健所に収容された犬猫を動物愛護管理センター(以下「センター」と略す)に集約し、譲渡適性があるとみなされた犬猫について「適正譲渡」を行っていました。保健所からの譲渡も制度的には可能でしたが、対象は犬のみでほとんど実態もなく、単に手続きのみを定めているという感じでした。犬猫の殺処分に対する風当たりが強くなった2010年代、自治体Xは殺処分数ワースト上位の常連で、全国から非難を受けていました。そこで自治体Xは方針を転換し、保健所における譲渡の対象を猫にも広げ、動物愛護団体への譲渡も始めました。その結果、保健所に収容された犬猫のほとんどは保健所から譲渡され、センターに移送されるのは負傷や病気等、または離乳前の犬猫がほとんどとなりました。センターでは収容動物に対するケアが行われ、回復した犬猫については譲渡適性を評価した上で適正譲渡されます。つまり自治体Xの譲渡は「適正譲渡」としての「センター譲渡」と、「譲渡を増やすための譲渡」としての「保健所譲渡」の2本立てになったのです。実際に自治体Xの殺処分数は激減し(収容数はあまり変わっていませんが)ましたし、山奥にあるセンターよりも保健所の方が利便性の高い場所にある(気軽に来ることができる)というメリットもあります。

そこには副次的効果もありました。基本的にアニマルシェルターは、感染症やストレスのリスクを考えると、動物が長期滞在する場所ではありません。シェルターメディスンには「ファストトラック/スロートラック」という考え方があります。つまり現状で譲渡可能な動物は速やかに譲渡し、一定のケアが必要な動物はじっくりとケアしたのちに譲渡するという2本の経路を用意することが望ましいということです。自治体Xにおいては、保健所譲渡が「ファストトラック」、センター譲渡が「スロートラック」に該当します。まさに理にかなった方法だったのです。保健所譲渡とセンター譲渡の違いについて、まとめておきます。

しかし保健所譲渡は「譲渡を増やすための譲渡」であり、「適正譲渡」とは言い難いという問題があります。次回においては、そこをどう考えていけばよいかを考えてみます。

 

※犬の登録及び狂犬病予防接種については、保健所は収容期間が30日を超えることがないため不要、センターは該当する場合実施している(と書いてほしいと言われた)。