「適正譲渡」をめざして

自治体Xが実施している「保健所譲渡」は「適正譲渡」とは言い難く、自治体の譲渡事業として問題があるのではないかという指摘があります。しかし前回にも述べたように「保健所譲渡」はシェルターメディスンの観点から(動物にとっての)利点があり、また実際に自治体Xにおける殺処分数は激減しています。反面、適正譲渡ではない譲渡は「不適正飼養者の増加」につながり、「収容動物、処分数の増加」や「事故や公衆衛生問題の発生」を招くといわれています。その原因について考えてみましょう。

保健所譲渡(譲渡数を増やすための譲渡)とセンター譲渡(適正譲渡)の違いは「講習会(譲渡前講習会、しつけ教室等)受講の有無」「避妊去勢手術やワクチン接種の未実施」「マッチング不足」「追跡調査の有無」と考えられます。それをどう改善し、適正譲渡に近づけていけばよいか、私なりに考えてみました。

 

譲渡前講習会の実施 

保健所譲渡であっても、やはり譲渡前講習会は行った方がよいと思います。保健所でその都度講習会を行う余裕はないでしょうから、一部自治体で検討されているような「オンライン講習会」もやむを得ないと思います。本当は譲渡前講習会のカリキュラムを全国で統一して、どこかで受講すれば全国で有効というのが望ましいのですが(食品衛生責任者のように)。

 

時間をかけたマッチング 

保健所譲渡は時間的・人員的な面でいろいろと制約が多いのですが、マッチングには時間をかけた方がいいと思います。特にインターネットの情報を見て(特に「ペットのおうち」の「期限まで○○日!」などの文言を見て)、衝動的に遠方から来るような人には注意すべきです。飼養環境や生活環境などを丁寧に聞き取り、本当にその動物が飼えるか否かを判断しなければなりません。

 

追跡調査の実施 

譲渡の際には、通常「速やかな健康診断の実施」や「避妊去勢手術の実施」などについて誓約書を書いてもらいます。そこで誓約していただく内容は、いずれも適正飼養に不可欠ですので、履行したことの確認のために追跡調査が必要です。保健所譲渡は「譲渡数を増やすための譲渡」ですから、譲渡先を選びません。場合によっては遠方のこともあるでしょう。普通に考えて、追跡調査は困難です。今どきは電子メールでやり取りができるのですから(高齢者には難しいかもしれませんが、そもそも高齢者への譲渡がどうなのかという問題はあります)、状況の確認や写真の送付などは可能であると思います。

 

工夫次第で、適正譲渡に準じた保健所譲渡が可能です。山奥のセンターで選抜された犬猫を細々と譲渡するよりも、街中の保健所で少しでも多くの人に譲渡する方が望ましいと、私は思っています。