ケース1 離乳前の子猫

よく「離乳前の子猫」と十把一絡げに言われますが、おおむね生後10日以上で健康な子猫であれば自力でミルクを飲むこともできますし、意外に手がかからない(離乳は大変ですが)ので「譲渡可能」でよいかと思います。ミルクボランティアにも安心して預けられます。段ボール箱に入れられて遺棄されているような子猫の多くはこのくらいの日齢です。

問題は生後数日、まだへその緒が残っているような子猫です。そもそもそのような子猫を拾ってはならないのですが、母親の育児放棄や移動時の置き忘れなどでやむを得ない場合が出てきます。そのような日齢の子猫はおそらく自力でミルクを飲むことはできないでしょうから、数時間おきにスポイトで授乳する必要があります。ミルクボランティアに任せるにしても、難易度は高めです。そういうスキルを持ったミルクボランティアがいるか、職員が24時間体制でケアできない限り、「離乳するまで育つ保証がなく、いたずらに生かし続けることにより、かえって苦痛を与えるおそれがある」という理由で殺処分の対象になります。それでも環境省は「譲渡可能」と言います。ならば環境省は、各自治体にミルクボランティア制度の創設か、職員による24時間体制のケアのどちらかを実施するよう通知を出すべきです。

ミルクボランティア制度がない自治体では、夜間は担当職員がこっそりと自宅に連れ帰り、ケアしていることも多いと聞きます。当然ながら時間外手当などつきませんし、同僚から「スタンドプレー」のそしりを受けることもありますが、担当職員の多くは獣医師ですから、できるだけ助けたいと思うのは自然な感情です。そこをきちんと公にして、「公務」扱いにすることが、彼らの気持ちに応えることになるのです。

子猫をアニマルシェルターに入れるべきではないというのは、少なくとも米国の関係者の間では常識です。収容のストレスで免疫力が低下し、感染症、特に猫かぜを発症するリスクが高いからです。

ここまではあくまでも健康な猫の場合です。猫かぜならまだしも、原因不明のいわゆる「進行性衰弱症候群」などは輸液や投薬といった獣医学的ケアが必要ですし、そこまでしても生存率が低いのです。特に生後早期に母親から引き離された子猫の場合、母親から十分な移行抗体をもらっていない可能性もあります。場合によっては安楽殺も必要かもしれません。

子猫は幼いほど生存率が低くなります。どんなに熱心にケアしても、亡くなるときには亡くなります。われわれ行政職員は感傷に浸っている余裕はありませんが、ミルクボランティアさんの共感疲労に留意しなければなりません。実はそこが最も難しい点かもしれません。

 

【結論】離乳後の譲渡を可能にするためには、担当職員の人員配置や勤務体制の見直し、もしくはミルクボランティア制度の創設や地元獣医師会との協力体制を構築が必要。それにより分類②はゼロになるが、分類①は微増、分類③は大幅増の可能性あり。