ケース3 交通事故の猫

「猫かぜ」と並び、負傷収容される猫に多いのが、交通事故(疑い)による負傷です。猫の交通事故の特徴は、頭部(下顎)と後肢(骨盤含む)の骨折が多いことです。ちなみに、猫の骨折の約3割は大腿骨、約2割は骨盤、約1割強が下顎骨、約1割弱が脛骨/腓骨といわれています(Schrader,1993)。事故を疑う動物を受け入れた際に最初にすべきことは、現場の状況や目撃情報から、それが本当に事故で事件性がないかどうかの確認です。故意に傷つけた可能性があれば、警察への通報が必要になります。

まず外傷の有無を確認します。後肢の骨折のみの場合は、外傷はない場合が多いです。顔面を強打したような場合、出血がよく見られます。外傷があれば、傷口の消毒や抗生剤の注射などの処置を行います。外傷がなくても、昏睡やけいれんなどを起こしている場合は、輸液を行いながら保温して経過を観察しますが、一晩持たないことがほとんどです。速やかな安楽殺を検討してもいいかもしれません。また見た目が元気であっても、何らかのダメージが原因で数日以内に急死することも珍しくありません。

次に、骨折の有無を確認します。見た目や触診でわかることもありますが、X線撮影による判定が確実です。擦過傷や打撲のみで骨折がなければ、薬物治療が可能です。骨折している場合、治療に関する体制がない自治体においては、その時点で「譲渡不適」と判断され、安楽殺されることが一般的です。しかし猫の交通事故に多い大腿骨や骨盤、下顎骨の骨折は概ね予後は良好であり、治癒可能な骨折を殺処分の根拠とすることは、社会的な理解を得られませんし、何よりも担当職員の無力感を惹起します。ここは地元獣医師会と協力体制を構築し、協力動物病院での治療を試みるべきです。治療が極めて困難であると臨床獣医師が判断してはじめて、安楽殺を検討することが理想的です(X線画像のやり取りで相談しあうことができる関係性が望ましい)。外傷がなく半身不随の場合も、同様の判断でよいと思います。下半身不随の猫であっても、他に異常がなければ、それを理解する人に対しては譲渡が可能です。しかしいったん譲渡対象として公開してしまうと、譲渡できなかった際に安楽殺することがきわめて困難になります。そのため、預かりボランティアによる長期飼養など、対応のルールを定めておく必要があります。

 

【結論】骨折がなければ処置後に譲渡可能。骨折がある場合、協力動物病院で治療可能であれば譲渡可能。治療が困難な場合は安楽殺を検討。半身不随については、他に異常がなければ理解のある人への譲渡は可能。その場合は譲渡できなかった際の対応を検討すること。ただしいずれの場合においても、探知できないダメージにより急死の可能性があるため、経過観察を怠らないこと。また、地元獣医師会との協力体制は必須。