ケース4 癒えた古傷

野良犬や野良猫の中には、古傷を持った個体も珍しくはありません。くくりわなで足を1本失った犬や、片目を失った猫などもよく見ます。それでも彼らは野外で生きていて、見つけた住民の通報により負傷収容されます。その状態は様々で、古傷が完治しているとみなされることもありますし、負傷の状況によっては一見完治しているように見えても、再処置が必要な場合もあります。足の切断の場合、多くは再切断が必要になります。特に骨が途中で切断されているような場合は、再度関節から切り離す手術が必要です。

再処置はほとんどが外科的処置になりますので、協力動物病院を確保することが必要です。現状において健康状態に問題がなければ、説明のうえ譲渡し、新しい飼い主に再処置を託すというのも一つの考え方です(それが「適正譲渡」かどうかは別問題ですが)。

似たようなケースに、動物の病気や障害を理由とした遺棄事例があります(純血種と推測される犬が、全身性の腫瘍を理由に遺棄された事例もありました)。また特殊なケースとして、遺棄された長毛種の犬の被毛が、長い野外生活でフェルト状になり、日常生活に支障をきたしているような事例もあります。体制が十分に整っていない自治体においては、これらの動物は「著しい障害」として「譲渡不適」と判断されることが多いと思います。被毛だけの障害であれば、トリミング後(トリミングも簡単ではありませんが)被毛が生えそろえば譲渡が可能かもしれませんが、完治の見込みがない全身性腫瘍の動物については、たとえ理解がある人に対してであっても、譲渡は難しいと思います。厳密に「適正譲渡」を実施しようとすれば、譲渡不適と判断された動物を譲渡することは難しいからです。多くの場合は安楽殺の対象となりますが、こういう場合を想定し「適正譲渡」を回避する裏ルート(例えば、協力動物病院への定期的な通院を義務付けるなど)を設けておいてもよいかもしれません。

「交通事故」でも述べたように、これらの動物を譲渡対象として公表することは簡単ですが、譲渡が成立しなかったときのことを考えなければなりません。障害を持った犬猫は人々の印象に残りやすく、またマスコミにも取り上げられやすいので、対応を誤ると炎上するおそれがあります。とはいえ、動物管理機関で飼い続けることは物理的・人的資源を消費し、かつ動物福祉にも反します。そうならないためにも、ボランティアに預けつつ、根気よく譲渡先を探すことになるのかなと思います。

 

【結論】現状において健康状態に問題がなければ、再処置が必要となる可能性を含め十分な説明を行うことを前提に譲渡可能。その場合は、譲渡後速やかに動物病院で健康診断を受けるよう指導すること。しかし譲渡対象として公表する場合は、譲渡できなかった場合の対応についてあらかじめ検討しておく必要がある。完治が難しい場合は「適正譲渡」は厳しいため、特殊な譲渡ルールの制定が必要。