アニマルシェルターで問題になる皮膚感染症は皮膚糸状菌症、疥癬、および毛包虫症です。皮膚糸状菌症は、真菌(カビ)が皮膚に寄生し脱毛を起こす疾患で、人間の場合しばしば「白癬」と呼ばれます。犬にも発生しますが、猫に多いといわれています。疥癬はセンコウヒゼンダニの寄生が原因で、激しいかゆみが特徴です。犬にも猫にも発生します。毛包虫症はニキビダニの寄生が原因で、ニキビダニ症とも呼ばれます。かゆみはさほど強くありませんが、皮膚の腫れやかさぶたで気づきます。猫もありますが、主に犬で問題になります。
重度の皮膚疾患に罹患し、収容される野良犬や野良猫は珍しくありません。重度の皮膚疾患に罹患している動物については、譲渡不適として殺処分の対象になることが多いと思います。特に皮膚糸状菌症や疥癬は人にも感染するため、全身性の場合は公衆衛生上の観点からも殺処分が選択されます。
しかし重度で全身性の皮膚感染症であっても、猫エイズなどの慢性疾患がない限り、ほとんどは時間をかければ適切な薬物治療による治癒、ひいては譲渡が可能です。皮膚糸状菌症は内服薬(イトラコナゾール)と硫黄剤の塗布の併用により治癒が可能です。少なくとも2週間は隔離のうえ投薬を行い、培養検査で陰性が確認されるまで治療を続けます。疥癬や毛包虫症についてはいい薬ができていますので(例えばバイエルの「アドボケート」)、支持療法との併用で効果が得られます。ただし少なくとも、数か月の治療が必要です。一部の毛包虫症については難治性で、安楽殺を検討しなければならない場合もあります。
ニキビダニ症の全身型(特に成犬になってから発症した場合)と肢端型では、厳密な治療が必要である。これらの病型の症例の予後は悪く、生命を脅かすことがある。老犬では、再発する可能性があるということと、経費の面や治療が難しいということを飼い主とよく話し合うべきである。
(「器官系統別 犬と猫の感染症マニュアル」並河和彦監訳、2005年、212頁)
日本の動物管理機関には、時間をかけて治療するだけの施設的・人的資源が足りない(ことにされている)うえ、皮膚病に関する理解不足もあり(見た目がアレなので)、これらの動物は極めて早期に見切られます。珍しい皮膚病に関しては専門医に託した方がよいでしょうが、ここに挙げたような疾患に関しては治療法が確立されており、免許を持った獣医師であれば対応可能です(治療薬の多くは要指示薬ですので)。また長期滞在が可能な隔離室と、休日の投薬体制が必要です。また長期滞在によるストレスが懸念されるので、エンリッチメントも重要です。
【結論】皮膚糸状菌症、疥癬、および毛包虫症であれば治療法が確立されているため、時間をかければ治療可能。その際には、少なくとも数か月収容できる隔離室が必要。ケアも専任のスタッフが行うことが理想。またストレスによる悪化が懸念されるため、エンリッチメントも重要。重症の毛包虫症の場合、安楽殺も検討。