ケース7 野犬①

いわゆる野良犬は、人間との関わり方によっていくつかのグループに分けられます。

「迷い犬」は、飼い主からはぐれてしまい、自宅に帰れなくなった飼い犬をいいます。通常、すぐに飼い主が判明し返還されます。一部の「迷い犬」は「放浪犬」になりますが、そのパターンはまれです。ほとんどの「放浪犬」は、遺棄された元飼い犬です。「放浪犬」は主に人里で、人間に依存して生活しています。中には保護されて飼い犬になったり、狂犬病予防員に捕獲され抑留される「放浪犬」もいます。「放浪犬」が繁殖し、世代を重ねたのが「野犬」です。一番下の「ノイヌ」は全く人間に関わらず、主に山中で野生生物を食べて生活している犬で、狩猟対象になっています。いわゆる「野犬」は、自由生活をしているものの、主に人里かその周辺で生活し、食べ物やねぐらなど、ある程度人間に依存した生活をしています。しかし人間との関わり方は千差万別で、例えば食事ひとつをとっても、人間から直接餌をもらっていたり、漁港で捨てられた魚のあらを食べていたり、都市部でごみをあさっていたりなど様々です。ちなみに「野犬」や「ノイヌ」は日本の行政用語で、学術的に「野犬」とはオーストラリアのディンゴのような「野生」の犬を指すそうです。

野犬の譲渡適性について、環境省の見解は明確です。野犬は人慣れせず、家庭動物としての適性に欠けるため「譲渡不適」となります。環境省の「譲渡支援のためのガイドライン」に記載されたとおりに譲渡適性を審査すると、間違いなく野犬の成犬は失格です。合格するのは、飼い主が自ら引取りを求めた元飼い犬がほとんどです(残りはフレンドリーな放浪犬です)。譲渡適性がないということは、殺処分対象になるということですから、環境省は「野犬の殺処分はやむを得ない」と考えているのです。つまり、新たな野犬の発生を抑制しつつ捕獲を進め、野犬がゼロになるまでの間の殺処分については仕方がないというわけです。

しかし「はいそうですか」とは言えないのが、主に中四国の、野犬の収容数が多い自治体です。巷で流布する「殺処分ワーストランキング」には、そういう地域事情など考慮されません。「殺処分数が多い=野蛮な自治体」というレッテルを貼られてしまうのは愉快なことではありません。野犬であっても、なんとか譲渡したいと考えるのが本音なのです。とはいえ、譲渡を優先させてしまうと、犬に不慣れな人にまで譲渡してしまい、咬傷事故や逸走事故の原因となってしまいます。それを防ぐためには殺処分しかない…という堂々巡りが続くのです。

残念ながら野犬の譲渡に関して、海外の知見は参照できません。野犬の譲渡という問題に直面している主要先進国は、おそらく日本だけでしょう。ですので、自分たちで答えを見つけ出さねばなりません。