ケース7 野犬②

野犬には譲渡適性がないというのが環境省の見解ですが、本当に野犬は譲渡できないのでしょうか。野犬を扱った経験がある人間として申し上げると、「譲渡は可能、ただし念入りなマッチングと丁寧な説明が必要」ということです。

野犬の子であっても、生後数か月までの子犬であれば譲渡に問題はないでしょう。実際に一般家庭に譲渡され、普通に家庭犬として暮らしている野犬の子犬は珍しくありません。ただし現時点で人慣れしているように見える子犬であっても、野犬は成長するにつれて、なかなか飼い主に慣れなかったり、物音に極端におびえたり、客人に執拗に吠え掛かったり、または逃走したりといった問題行動を起こすことがしばしばあります。その原因についてはよくわかっていませんが、遺伝的要因による可能性が指摘されています。野犬が繁殖を繰り返すことにより、野犬として生き抜くために起こった遺伝的変異が、結果的に行動に影響を与えている可能性があり、行動学者や遺伝学者らによる研究が始まったところです。近い将来に、「のら犬遺伝子」が発見されるかもしれません。

野犬の成犬については、極端に攻撃的な個体は少ない(野犬の攻撃行動のほとんどは、恐怖によるものです)ものの、基本的に人慣れしませんし、隙あらば逃げ出そうとします(元々が野外生活者ですから)。野犬であり、飼っていくにはそれなりのスキルが必要なことを十分に説明することは当然ですが、加えて、長期にわたって慣らしていく必要があり、場合によっては慣れないまま生涯を終える可能性があることを納得してもらったうえで譲渡することが必要です。またプロによる行動矯正が必要になるかもしれませんが、野犬を扱うトレーナーはあまりいないと思うので、そういう点でも苦労するかもしれません。

以上のことから、初めて犬を飼うような人に野犬を譲渡することについて、私は積極的に賛成しません。ある程度犬に慣れていて、意に沿わない行動をした相手に対しても愛情を注ぐことができるような人にとっては、野犬を飼うことはいい人生経験につながるのではないかと私は思います。また、野犬を訓化するスキルを持った動物愛護団体に預け、一定時間をかけて馴らしたうえで譲渡してもらうという手もあります。しかし本当は、行政機関がスキルを持った人を雇用し、野犬を適性評価に合格するまで時間をかけて訓化し譲渡するのが望ましいのですが。

 

【結論】野犬の子犬の譲渡は可能。ただし野犬の子犬であることを十分に説明し、将来に問題行動が発生する可能性を理解してもらうことが望まれる。問題行動に対するカウンセリング体制を整えることも必要。野犬の成犬の譲渡には十分なマッチングが必要。犬の扱いに慣れている人に十分説明の上譲渡するか、十分な訓化の期間を設けることが望ましい。