ケース9 人慣れしない犬

野犬の成犬のほとんどは人慣れしませんし、多頭飼育崩壊やパピーミル(子犬工場)などにおけるネグレクトからレスキューされたような犬も、人慣れしていないことが多いです。そもそも人間からの愛情を受けていないわけですから、当然といえば当然です。

環境省の「譲渡支援のためのガイドライン」によると、人慣れしないことだけをもって「譲渡適性なし」とはしていません。攻撃性が認められなければ、野犬の項でも述べたように、犬の扱いに慣れていて、かつそういう子だと納得してもらえるような方には譲渡してもよいと思います。

しかし人慣れしない犬を譲渡することは、犬自身のQOLの低下を招く可能性があるという意見もあります。Reid(2013)はこのように述べています。

 

Dogs who exhibit no sociability toward humans are unlikely to make suitable pets. Those dogs who panic to the point of self-injury and those who are catatonic in novel environments should be humanely euthanized. Even though some of these dogs eventually become somewhat tame in home-like surroundings, they are rarely able to cope with everyday stressors. McMillan, Duffy and Serpell (2011) found that 83Vo of former puppy mill breeding dogs still exhibit behavior problems in the home, including fear, house-soiling, sensitivity to being touched, and compulsive behaviors. Their quality of life can be severely compromised.

(Shelter Medicine for Veterinarians and Staff, Second Edition(2013),566p)

 

人間に対して社交性を示さない犬は、適切なペットになる可能性は低い。自傷行為に至るまでパニックを起こす犬や、新しい環境で緊張を感じる犬は、人道的に安楽死させる必要がある。これらの犬が最終的に家庭のような環境でやや飼いならされたとしても、日常のストレッサーに対処することはまれである。McMillan、Duffy およびSerpell(2011)は、かつてパピーミルで飼育されていた犬の83%が、恐怖、不適切排泄、触れない、強迫行動などの問題行動を依然として家庭で示していることを発見した。彼らのQOLは深刻に損なわれる可能性がある。

 

人慣れしないことを理由に、早々に見切ってしまうことは簡単ですが、それでは殺処分数はなかなか減りません。収容能力の問題もあるかもしれませんが、近隣の自治体で分担するなど方法はあるはずです。本当に人慣れしなければ安楽殺も検討するとして、訓化のチャレンジくらいはしてもよいのではないかと私は思います。それでも一般家庭の家庭犬になることは難しいと思いますので、理解のある人に譲渡することは前提です。

 

【結論】人慣れしない犬は訓化のうえ、理解のある人に譲渡することが可能。どうしても訓化できない犬については安楽殺を検討。ただしその際には、動物行動学の専門家による助言を得ることが望ましい。