レトロウイルス検査陽性による殺処分

前にFeLV(猫白血病ウイルス)やFIV(猫免疫不全ウイルス)のキャリアの猫は条件付きで譲渡可能というお話をしましたが、実際に日本の行政機関でどう扱われているかをご紹介します。私の調べによると、日本において動物愛護管理行政を所管している自治体(都道府県、政令指定都市、中核市)のうち、簡易検査でFeLV陽性を示した猫を安楽殺対象とする自治体は約3割、FIV陽性を示した猫を安楽殺対象とする自治体は約2割、いずれの陽性検査結果も安楽殺の根拠とはせず、総合的に判断する(AAFPガイドライン推奨)自治体は約4割ということです。FIV陽性は安楽殺対象とはしないが、FeLV陽性は安楽殺対象とする自治体が約1割あります。

なぜそのようなことになるのかということですが、まずはこの表を見てください。

FeLVとFIVは、どちらも免疫不全症状を示すレトロウイルスの仲間ですが、ウイルスの種類が異なるので、感染の様相がかなり異なります。なぜFeLV陽性の猫を安楽殺対象とする自治体が多いのか、その理由を私なりに考えてみました。

 

FeLVの方が感染しやすい 

FeLVは感染猫の唾液などの体液に含まれ、主に相互グルーミングで付着した唾液中のウイルスが鼻や口を経由して体内に侵入します。基本的に猫はグルーミングを自分で行いますが、首から上は自分で舐めることができないため、他の猫に舐めてもらうのです(猫が首から上を触られると喜ぶのはそのためです)。対してFIVは、感染猫の唾液の中にウイルスが存在することは同じですが、けんかによる傷口から侵入します。つまり、FeLVは仲がいい猫同士、FIVは仲が悪い猫同士で感染します。AAFPガイドラインで「相性の良い猫同士ならFIVの感染リスクは低い」と記されているのは、そういうことなのです。感染症蔓延防止の観点から、FeLV陽性猫を殺処分対象とすることは理にかなっているのかもしれません。

 

予後が不良である 

見るからに猫エイズを疑う、ガリガリに痩せていて、ボロボロの野良猫によく遭遇しますが、彼らは「元気」で食欲も普通です。検査するとやはりFIV陽性なのですが、室内で飼ってあげればおそらく数年は生きると思うので、それを承知していただける方に譲渡することは可能です。一方FeLVに持続感染した猫の85%は3年以内に死亡するといわれています。しかもFIVよりも免疫抑制症状が強く、しばしば致死的です。たとえ飼い猫であっても、猫白血病を発症した場合には安楽殺が奨励されます。予後不良を理由に、FeLV陽性猫を安楽殺することは理にかなっているのかもしれません。

 

しかしFeLVの感染と発病のメカニズムを考えると、たった1回の簡易検査の陽性結果をもって安楽殺対象とすることについては、AAFPもASVも推奨していません。それがどういうことか、次回にお話しします。