約3割の自治体が、FeLV(猫白血病ウイルス)の簡易検査の陽性結果をもってその猫を「譲渡不適」と判断し安楽殺しています。たしかにFeLVは感染力が高く、致死性の免疫抑制疾患の原因になるため、感染猫を安楽殺の対象とすることは理にかなっているのかもしれません。しかし1回の検査結果で安楽殺を選択することに、私は賛同できません。その理由を説明するには、FeLVの体内動態について理解する必要があります。
口や鼻から侵入したウイルスは、口腔咽頭部のリンパ組織で増殖し、リンパ球を介して全身に広がりますが、健康な成猫の場合、多くの場合はこの時点で免疫機能が働き、ウイルスは排除されます。これが不稔感染abortive infection、すなわち一時的な感染です。ウイルスが体内に広がり骨髄幹細胞や全身のリンパ組織に定着すると、そこでウイルスが増殖し、常に血液中にウイルスが存在した状態になります。これを持続感染(AAFP(2020)の「進行感染」progressive infection)と呼び、この状態の猫は数年以内に死亡するといわれています。またウイルスが骨髄幹細胞に定着したものの、宿主の免疫で抑えられて潜んでいる状態を潜伏感染(AAFP(2020)の「退行感染」regressive infection)といいます。潜伏感染の場合、一時的にウイルスの増殖は抑えられていますが、ストレスなどによって宿主の免疫力が低下すると、再び血中にウイルスが出現します。一般的に4ヵ月齢未満の子猫は持続感染、成猫は一時的な感染が多いといわれています。
FeLVの簡易検査は、現時点において血液中にウイルスが存在するか否かを判定するだけで、持続感染なのか潜伏感染なのはわかりません(不稔感染の場合は血中にウイルスは存在せず、検査しても検出されないといわれています)。しかし、AAFP(2020)は、その臨床的意義を強調しています。
Only viremic (antigen- positive) cats shed virus under natural circumstances and are infectious for other cats. This includes cats with progressive infection and cats with regressive infection in the early phase of transient viremia or after reactivation of infection.
ウイルス血症の(抗原陽性の)猫だけが自然の状況下でウイルスを放出し、他の猫に感染させる。これには、進行感染の猫と、一過性ウイルス血症の初期段階または感染の再活性化後の退行感染の猫が含まれる。
少なくとも現時点においてFeLV簡易検査陽性の猫は、他の猫とは隔離する必要があります。問題はそれが持続感染なのか、潜伏感染に移行するのか、または一過性のウイルス血症なのかです。持続感染であれば、予後不良と判断し安楽殺を検討すべきですが、潜伏感染(AAFP(2020)によると、一過性のウイルス血症であっても、それは退行感染の第一段階です)であれば、再発による感染リスクを避けるため、単独飼育と完全屋内飼育を前提に譲渡が可能です。それを見極めるために、一定期間後(英国では12週後とされている)の再検査が必要なのです。