FeLVの簡易検査陽性の猫について、1度の検査で「譲渡適性なし」と判断する根拠として、例えば獣医学の教科書にはこういう記述があります。
血中FeLV抗原陽性の場合は、一過性ウイルス血症のこともありうるが、ほとんどの場合持続感染であることを示す。(「動物の感染症」清水悠紀臣ら編、2002年、311P)
猫が健康な場合には6~8週後に再検査して,ウイルス血症の持続を確かめるとよい.とはいっても,FeLV陽性猫のウイルス血症が自然に消退するのは3%にすぎない.(「猫の医学」加藤元ら監訳、1993年、292-293P)
また、FeLVの簡易検査キット(ほとんどのキットはFIVとセットになっている)の感度や特異性は極めて高く、検査結果が信頼できることもそれを後押ししています。余談ですが、特にFeLVは採血のタイミングによって検査結果が異なるという声をよく聞きますが、おそらくそれは潜伏感染の猫であって、猫の免疫状態によってウイルスが血中に出たり出なかったりするのではないかと思われます。
しかしAAFP (2020)も述べているように、必ずしも「血中のウイルスの存在=持続感染」ではないことがわかってきています。「退行感染」に至る前の一時的なウイルス血症や、潜伏感染の再発によるウイルス血症の可能性もあります。こういう記述もあります。
猫はワクチン接種や繁殖をする前にスクリーニングすると、FeLV陽性であることが時々見つかる。これらは他の猫から隔離し、12週後再検査すべきである。ほとんどの猫は2回目は陰性となるが、このことは感染が一時的であったことを示し、現時点ではさらなる感染に対して免疫状態にあるようである。(「器官系統別 犬と猫の感染症マニュアル」並河和彦監訳、2005年、69頁)
FeLVに持続感染した猫は予後不良で、動物福祉の観点から安楽殺が推奨されます。AAFP (2020)によると、各種の研究結果により、「FeLV進行感染の猫、およびFeLVとFIVの同時感染の猫は、寿命が大幅に短く、リンパ腫の発生率が高かった」と結論付けています。しかし、こうも述べています。
These studies demonstrate that retrovirusinfected cats, especially FIV-infected cats, may experience normal longevity with appropriate husbandry and disease management. Diagnosis of a retrovirus infection should not be the sole criterion for euthanasia. owners should be educated in detail about options for care of infected cats.
これらの研究は、レトロウイルスに感染した猫、特にFIVに感染した猫は、適切な飼養管理と健康管理によって通常の寿命を全うする可能性があることを示している。レトロウイルス感染の診断結果は安楽殺の単一基準であってはならない。飼い主は、感染猫のケアのための選択肢について、詳細に教育されるべきである。