FeLVやFIVの全頭検査は推奨されない?

AAFP(2020)は、アニマルシェルターに入る猫に関しては、FeLV(猫白血病ウイルス)やFIV(猫免疫不全ウイルス)の全頭検査を推奨しています。しかしUCデイビス(カリフォルニア大学デイビス校)のWebサイトを見ると「近年、シェルターメディスン関係者はFeLVやFIVの全頭検査を中止するよう推奨している」と書かれていました。その理由として、Schumacher(2019)はこのように述べています※。

 

1.検査精度の問題

・FeLVやFIVは罹患率が低いため、全ての健康な猫を検査すると陽性的中率が下がり、相当数の偽陽性が発生する(COVID-19関連で聞いたような話ですね)。

・たとえ簡易検査が陰性であっても「現時点で陰性」としか言えない。特にFeLVは複雑な病気のため、検査結果の解釈が難しい。

 

2.リソースへの影響

・検査費用が莫大になる。

・検査は獣医療スタッフが実施する必要があり、検査待ち時間が生じ、結果的に全ての猫のシェルターへの滞在期間が延びる。

・FeLVやFIV陽性と判定された猫は譲渡が難しく、滞在期間が延びることにより、全ての猫に影響が及ぶ。

 

3.検査結果の不正確さが及ぼす影響

・解釈が難しい情報によって、シェルター運営に混乱をきたすおそれがある。また誤って健康な猫を安楽殺する可能性がある。

・陰性の結果が、譲渡者に誤った安心感を与えるおそれがある。

・FeLVやFIVの陽性結果をもって安楽殺を実施するシェルターにおいては、スタッフの士気の低下や燃え尽き症候群を増加させるおそれがある。

 

そして、咬傷や膿瘍、口腔疾患、倦怠感など、感染を疑うような臨床症状を示す猫にのみ検査を実施するよう勧めています。そうすれば検査集団の罹患率が上がり、検査結果の信頼度が高まります(日本におけるCOVID-19関連のPCR検査と同じ考え方です)。なぜそれでよいかというと、健康な猫におけるFeLVやFIVの感染率がきわめて低いことと、少なくとも成猫同士においては感染のリスクが極めて低いことを挙げています。

 

For both FeLV and FIV the risk of transmission between adult cats is extremely low unless crowding or immunosuppression is present.

FeLVとFIVの両方において、混雑または免疫抑制が存在しない限り、成猫間の感染のリスクは非常に低い。

 

Schumacherは成猫同士であればグループ飼育も可能と言っています(関係のない子猫を混ぜてはならないとの記述もあります)。

まったくもって何を信じればよいのかさっぱりわかりませんが、特に先住猫がいる譲渡希望者は「FIV陰性」の検査結果を求めることが多いので、譲渡推進の観点から、可能な限り生後6か月以上の猫は譲渡前に検査を実施した方がよいのではないかと私は思います。

 

※“Why are some shelters no longer testing all cats for FeLV and FIV?” https://www.sheltermedicine.com/library/resources/?r=why-are-some-shelters-no-longer-testing-all-cats-for-felv-and-fiv(2020年12月11日アクセス)