セコバルビタールはAVMA安楽殺ガイドライン(2020)にも名前が挙がっている、麻酔にはあまり用いられないバルビツレートです。あまり聞きなじみがないのは、日本の「麻薬及び向精神薬取締法」においてセコバルビタールは最も重い規制がかかる「第一種向精神薬」(ペントバルビタールは第二種)で、比較的入手が難しいからです。英国では心停止作用を持つジブカインとの配合薬である「Somulose」が動物の安楽殺薬として使われています。
赤木ら(2020)は「安楽死処置におけるセコバルビタールの有用性」※において、ペントバルビタールの代替薬としてセコバルビタールが使用できないかという検討を行っています。その結果「セコバルビタールはペントバルビタールに非常によく似た作用特性を示すのみならず、麻酔作用はより強力である」とし、価格面と法的規制による管理面の折り合いが付けば、「セコバルビタールはペントバルビタールの代替安楽死薬の第一候補として強く推奨することができる」と結論付けています。
しかし花井ら(2020)は「実験動物の安楽死の問題 安楽死処置におけるバルビツール酸誘導体の国内における規制と倫理的問題」※において、「実験動物では研究目的等で意図的に疾病や傷害を惹起させているのであるから他の動物の安楽死より、より倫理的な方法を選択し施行しなければならない」と述べたうえで、「安楽死を施行するという行為自体が高い倫理性のもとで行われることが前提であり、人の薬物の濫用を防止するため種々の規制法が制定されていたり、国際条約が設けられていることを考えると、より規制の強い薬物をことさらに選択することは控えるべきである」とし、セコバルビタールは「国際的にも国内法でもより規制の強い薬剤とされていることからPB(のらぬこ注:ペントバルビタールの略)の代替としては倫理的には適当ではない」「セコバルビタールをPBの代替薬剤として使用する場合は、他の薬剤では適当ではない、規制がより強くとも薬理薬効などからそれを凌駕する利点などを、より慎重に検討する必要がある」と結論付けています。
研究に用いる動物の場合、学術論文に動物の安楽殺方法の記載が求められるという現実があり、倫理的問題は非常に重要です。獣医師による伴侶動物の安楽殺について、そこまで高い倫理性が求められるのかということはさておき、ペントバルビタールNaに代わる動物の安楽殺法の議論が具体化してきたことは望ましいことといえます。アカデミックとは程遠い、現場における安楽殺薬の選択基準は「いかに動物を苦しめずに死に至らしめうるか」、その1点につきます。その点において、セコバルビタールは十分に魅力的です。
※(公社)日本実験動物協会「LABIO21」 http://www.nichidokyo.or.jp/labio21.html(2020年12月11日アクセス)