家畜の「殺処分」はどう行われるのか

令和2年の年末には全国で高病原性鳥インフルエンザが猛威を振るい、多数の鶏が「殺処分」されたと連日報道されています。家畜伝染病予防法(昭和二十六年法律第百六十六号)では第16条に基づく「と殺」と第17条に基づく「殺処分」を明確に区分していて、高病原性鳥インフルエンザの鶏を「殺処分」することはあり得ないので、厳密にいうとおかしいのですが、致死処分を表現するにあたり一般に通りの良い「殺処分」の語を使っているのでしょう。いずれの致死処分も、本来は指示を受けたその家畜の所有者が実施するのですが、緊急を要する場合は家畜防疫員(獣医師である都道府県職員)が実施することとされていて、多くの場合は家畜防疫員が実施しています。

「と殺」(家畜防疫員が指示または実施する、緊急の致死処分)が必要なほど重大な家畜伝染病については、農林水産省によって病気ごとにその方法が定められています。例えば鳥インフルエンザの場合、「高病原性鳥インフルエンザ及び低病原性鳥インフルエンザに関する特定家畜伝染病防疫指針(令和2年7月1日 農林水産大臣公表)」の中の「第7 発生農場等における防疫措置」「1 と殺(法第16 条)」の中にこのような記述があります。

 

(6)と殺は、動物福祉に配慮しつつ、二酸化炭素によるガス殺、泡殺鳥機等により迅速に行う。また、臨床症状が確認されている家きん舎を優先して行う。

(7)と殺に当たっては、防疫措置従事者の感染防止、健康管理及び安全確保に留意するとともに、家きんの所有者、防疫措置従事者等の心情にも十分に配慮する。

 

また口蹄疫に関しては、「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針(平成27年11月20日 農林水産大臣公表)」の中の「第6 発生農場等における防疫措置」「1 と殺(法第16条)」にこう記されています。

 

(6)と殺は、防疫措置従事者の安全を確保することに留意し、薬殺、電殺等の方法により迅速に行う。特に、豚のと殺については、電殺や炭酸ガスによると殺など効率的な方法で行う。

また、鎮静剤又は麻酔剤を使用するなど、可能な限り動物福祉の観点からの配慮を行うとともに、家畜の所有者、防疫措置従事者等の心情にも十分に配慮する。

 

家畜伝染病予防法の規定による致死処分の目的は家畜伝染病の蔓延防止ですから、迅速性・効率性がまず求められます。動物たちが本当に苦しまずに死んでいけるのかどうかは二の次ではありますが、畜主や実施者の心情を考えると、極力安楽殺に近い形での実施が求められます(特に豚が苦しみながら死んでいく姿を見ることは、心的外傷を起こしかねません)。とはいえ実際に現場に身を置くとわかりますが、現実には完全な安楽殺の実行は難しく、あくまでも「安楽殺に限りなく近づける」ことに主眼が置かれます。