犬猫の避妊去勢手術に反対する人の意見としてまず聞かれるのが「人間にしないような手術をなぜ犬猫にするのか」です。それを説明するためには、繁殖生理に関する基礎知識が必要です。
犬には年1~2回、猫には年2~3回の「繁殖期」があります。雌は繁殖期に発情し、雌犬は主に匂いで、雌猫は主に鳴き声と匂いで雄を誘います。雌犬は発情開始約2日後、雌猫は交尾後約1日で排卵します。繁殖期に交尾すれば、高確率で妊娠できるというわけです。なお、雌猫は発情中に何度も雄猫を受け入れます(多発情といいます)。雄には特に発情期というものはなく、年中準備OKなのですが、雌が受け入れないことには話になりませんので、雌の鳴き声や匂いで興奮し、交尾に至ります。その際には他の雄とのけんかもあるかもしれません。
「外に出さなければいい」とおっしゃる方もおられますが、発情した雌の匂いを感知した雄は興奮し、その雌の元に行きたくてたまらなくなります。そのときに部屋に閉じ込めていれば、まさに「ヘビの生殺し」です。また発情した雌猫は独特の鳴き声で雄を呼ぼうとしますから、閉じ込めてしまうと、これまたかわいそうな話になってしまいます。これは性ホルモンに支配された生理的なものですので、本人の意思ではどうにもなりません。繁殖期に避妊去勢していない犬猫を部屋に閉じ込めることは、それだけでかなりのストレスになるのです。避妊去勢手術している犬猫については、卵巣や精巣から性ホルモンが分泌されないので、このようなことは起こりません。
つまり犬猫の避妊去勢手術には「不幸な動物を増やさない」という基本的な目的のほかに、雌の発情とそれに対する雄の反応を防ぐことにより、犬猫の福祉に寄与するという副次的目的もあるのです。
人間には繁殖期がなく(年中発情しています)、それに伴う爆発的な発情行動も、通常ありません。精神の安定のために不妊去勢手術を行う必要性はありませんし、そういう発想もありません(社会秩序を守るために去勢した方がよいのではないかと思われる、性欲に支配された輩もたまに見かけますが)。
また変な話ですが、人間にとって性行為は一種のコミュニケーション手段となっていて、ある意味文化的な香りを漂わせているのですが、動物にとって性行為は単なる繁殖手段です。犬や猫は性行為によって愛を確かめ合ったりしませんし、一生処女や童貞であっても特に気にしません。
犬や猫の繁殖生理は人間と大きく異なります。犬猫の避妊去勢手術は決してかわいそうなことではなく、犬猫の福祉を守るために必要であるということを強調しておきたいと思います。