「一度産ませてやりたい」の罠

犬猫の避妊手術に反対する人からは「せっかく生まれてきたのだから、一度くらいは子供を産ませてやりたい」という意見もよく聞きます。また、避妊手術のために動物病院に雌の犬猫を持ち込み、そこで初めて妊娠が発覚したような場合、堕胎を嫌がり「一度産ませましょう」と言う獣医師もいると聞きます。

例えば猫でこれをやってしまうとどうなるか、具体的に数字を挙げながら説明しましょう。避妊手術のタイミングを逃してしまい、妊娠してしまった猫を動物病院に連れて行くと、獣医師に「1回だけ産ませましょう」と言われ、4匹の子猫を出産後に避妊手術しました。幸いにも子猫たちは全員譲り先が決まりました。もちろん譲渡時には、避妊去勢手術を必ず行うよう口約束していました。しかしその中に一人不届き者がいて、雌猫1匹が避妊手術のタイミングを逃して妊娠してしまいました。しかも動物病院にかかるお金がなかったので、そのまま産ませてしまいました。そのとき産まれた子猫4匹は譲り先が決まったものの、さらにタイミングを逃しまた4匹の子猫が産まれてしまいました。友人のつてを頼っても、これ以上の譲渡は無理でした。そして行き先が決まらないまま数か月が経過し、母猫と2匹の子猫が妊娠し計12匹の子猫を産み…

あまりにも恐ろしい話なのでこれくらいにしておきますが、たった一度の過ちが蟻の一穴となり多頭飼育崩壊まっしぐら…などという例はいくらでもあります。しかも事の発端を作った張本人はこのことに気づいていないかもしれません。「全て譲渡したから責任は果たせた」と思っているかもしれません。そこが落とし穴なのです。自分としては最善を尽くしたつもりでも、その先でひとつでも過ちが起こると、全ての前提が崩れ去ります。猫の繁殖力を甘く見てはいけません。猫ほどではありませんが、犬の繁殖力も侮れません。

当たり前ですが、犬や猫は親子やきょうだいの間でも繁殖します。「きょうだい同士だから大丈夫」なんて、アメリカンジョークのネタだけにしておいてほしいものです。

胎仔も命ですから、殺めてしまうことに抵抗を感じる気持ちは理解できます。しかし不幸な命をこれ以上増やさないために、心を鬼にしなければなりません。特に獣医師であれば、さらに冷静な判断が求められます。たとえその場で問題の先送りに成功したとしても、結局後始末はわれわれ公衆衛生獣医師に降りかかってくるのです。

 

※このへんの恐ろしい話については、環境省の「ふやさないのも愛」というパンフレットも参照してください。絵もカワイイのでオススメです☆彡

https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h2706h.html

 

また猫の繁殖力を直感的に理解するには、日本捨猫防止会のホームページが役立ちます。

http://www.nsb1961.com/suteneko/index.files/flame_b_files/frame_b-huninn.htm