米国における譲渡の歴史

譲渡時の避妊去勢手術について考える前に、米国において譲渡がどのように行われてきたかを大まかに見ていきましょう。

米国のアニマルシェルターにおいては、20世紀半ばまで、何の手続きもなく動物の譲渡が行われていました。さすがにそれでは譲渡の質が保証されないということで、1970年代頃から譲渡希望者からの申請に基づき、審査を行うことが一般的になりました。しばしばその手続きは煩雑で、それがかえって譲渡の妨げになっているという懸念が生まれました。1973年、ASPCA(米国動物虐待防止協会)はニューヨーク市のシェルターで、譲渡後の避妊去勢手術を義務付けるという、今では当たり前ですが、当時としては画期的な取り組みを始めたものの、なかなか社会の理解が得られなかったようです。

1999年に、譲渡時の審査が厳しすぎる(動物福祉の専門家がシェルターによる審査ではじかれてしまったという事例が複数発生した)という事例を受け、全米のシェルター管理者による”Adoption Forum I”という会議が行われました。そこでは、厳しい審査により譲渡対象者を選別するのではなく、主に面談による「マッチング」によって、動物にとってふさわしい飼い主を見つけることに主眼を置く”open adoptions”が提唱されました。マッチングを行うには、譲渡適性の評価が必要です。動物の健康状態や行動についての正確な情報がなければ、どのような飼い主がふさわしいかがわかりません。また本当にマッチングが成功したかどうかを確認するための「フォローアップ」も必要です。

2003年に開催された”Adoption Forum II”において、譲渡先の最低条件が提示されました。

 

(1)動物の避妊または去勢を実施すること。

(2)動物虐待または児童虐待の前歴がないこと。

(3)申請時に飲酒していない、または飲酒が疑われないこと。

(4)譲渡した動物を食用に供しないこと。

 

また、譲渡先を評価するためのガイドラインも提唱されました。

 

(1)譲渡が個々の動物と家族に適しているか。 

(2)ペットは適切な獣医療を受けることができるか。

(3)ペットの社会的、行動的、および伴侶的ニーズが満たされるか。

(4)ペットに快適な生活環境(適切な食物、水、隠れ家、運動を含む)を提供できるか。

(5)ペットは尊重され、大切にされるか。 

 

これらは日本における譲渡の現場でも行われています。つまり「避妊去勢手術」「適性評価」「マッチング」「フォローアップ」を柱にした「適正譲渡」の基本は、こうして生まれたのです。

 

※この項の執筆にあたっては、Zawistowskiら(2013)(Shelter Medicine for Veterinarians and Staff, Second Edition,8p)およびWeissら(2013)(同,535-536p)を参照しました。