避妊去勢手術サービスの提供

日本において犬猫の譲渡事業を行っている自治体のうち、全頭に避妊去勢手術を施し譲渡しているのは5%(のらぬこ調べ)にすぎません。多くの自治体は独自の基準で一部の譲渡動物にのみ避妊去勢手術を実施しています。前回も述べたように、譲渡の前提条件として避妊去勢手術を義務付けているのは日本も米国も同じです。米国においても、シェルターの体制などの要因で、必ずしも全ての動物を避妊去勢手術後に譲渡できているわけではありません。また、地域の飼育動物への避妊去勢手術の普及もシェルターの重要な役割です。シェルターが実施する避妊去勢手術サービスは、大きく分けると次の5つです。

 

アニマルシェルター内の避妊/去勢クリニック

当然のことながら、譲渡動物に対してはシェルター内に手術室を設け、そこで避妊去勢手術を行うことが理想的です。譲渡後に避妊去勢手術を実施するという約束は反故にされがちで、実施を確認するための人件費もバカにはなりません。また空いた時間を利用して、地元のペットに対する避妊去勢サービスやTNRを実施することもできます。

 

MASH(Mobile Animal Surgical Hospitals)

いわゆる「出張サービス」で、日本においてもTNR推進団体によって実施されている方法です。地元動物愛護団体からの要望に応える形で、手術のための資材一式を臨時的に借り受けた会場に持ち込み、集中的に避妊去勢手術を実施します。この方法はフットワークが軽く、初期投資も低額に抑えられます。反面、輸送は機器の消耗を招きますし、手術器具を滅菌・保管するための基地も必要です。

 

MSNC(Mobile Spay/Neuter Clinics)

車両を改造して、手術室そのものを移動させるという考え方です。米国の一部のシェルターではこういう車両で、動物病院がない地域や、避妊去勢への自覚が乏しい飼い主が多い地域に定期的に出張しています。車両は災害時の救護施設や臨時譲渡センターとしても使用できますし、車両が大きいので、それ自体の広告効果も期待できます。しかし車両費や維持費などのコストが高額で、また専属の運転手を雇用する必要があるかもしれません。

 

専用の避妊去勢クリニック

アニマルシェルターは交通の不便な場所にありがちなので、利便性の高い場所に避妊去勢手術に特化した固定式のクリニックを設置するという考え方もあります。しかし初期投資が高額で、建設にも時間がかかります。

 

費用の助成

譲渡後の動物の避妊去勢手術を最寄りの動物病院で実施し、かかった経費を助成するという考え方もあります。この方法には、将来のかかりつけ医との関係構築の機会という、大きなメリットがあります。動物病院での実施ですので初期投資はかかりませんが、手術費用は比較的高めです。また助成のための財源が大きな問題となります。

 

※この項の執筆にあたっては、Makolinski(2013)(Shelter Medicine for Veterinarians and Staff, Second Edition,581-583p)を参照しました。