「出口戦略」の限界

かつて野犬は「譲渡不適」とされ、基本的に殺処分の対象とされてきました。しかし野犬の収容が多い自治体は必然的に殺処分数も多く、何かとやり玉にあげられています。野犬が少なく、しかも引受先の動物愛護団体も多い首都圏の某県が、何かと「ウチは殺処分ゼロ」と言うのを聞いて、内心ムカついている行政担当者は多いと思います。

なんとか殺処分を減らそうと、野犬が多い西日本の一部自治体では、避妊去勢手術もせずに野犬を動物愛護団体に譲渡していますが、それは問題の先送りにほかなりません。動物愛護団体に負担を押し付けることは、収容動物のケアの質の低下につながりますし、野犬の安易な譲渡は咬傷事故や逸走の原因にもなります。さらに怖いのは、避妊去勢が行われていない野犬が逸走し、繁殖することです。これでは何をしているのかわからなくなります。

ではどうすればいいかというと、少なくとも動物愛護団体に譲渡する前に避妊去勢手術を行うか、動物愛護団体が実施する避妊去勢手術への公的補助が必要です。これは最低条件です。また、動物愛護団体が野犬を譲渡する際の説明を丸投げするのではなく、野犬の取り扱いについての小冊子を作成し、譲渡の際に配布してもらうことも必要です。野犬はペットショップで買ってきた犬とは違う生き物です。人間との関係を、ゼロから構築していかなくてはなりません。これから野犬を飼おうとする人には、それくらいの認識を持ってもらわないと困ります。

しかし譲渡の促進といういわば「出口戦略」には限界があります。いくら野犬を捕獲して譲渡したところで、野犬がいなくなるわけではありません。

このグラフは、西日本の「野犬問題で全国的に有名な市」を管轄する保健所における、犬の捕獲数(野犬だけとは限りませんが)の年次推移を示しています。通常、捕獲すればそれだけ野犬が減り、捕獲数も次第に減っていくのですが(全国統計では犬の収容数は右肩下がりで減っています)、この保健所は逆に増えています。この保健所では平成28年頃から動物愛護団体への野犬の譲渡を始めていますので、もしかしたらそのあたりが関係しているのかもしれません。

年間500頭以上の野犬を捕獲しても捕獲数が減らないということは、捕獲数が繁殖数に追い付いていないと考えるのが自然です(このご時世に、それだけの新たな遺棄が発生しているとは考えられません)。その原因は野犬の母数が非常に多いか、野犬の繁殖能力が非常に高いかのどちらか(またはその両方)です。今のままでは、野犬の増加を防ぐことはできても、野犬がいなくなることはないでしょう。

行政が手をこまねいている理由は明確です。どうせ何をやっても批判されるのだから、従前どおりの対策を行うしかないからです。特に保健所職員(=県職員)は数年で異動ですから、その間を乗り切ることで精一杯なのです。だからだらだらと同じ状況が続くのです。