野犬の生態学その2 食糧事情

野犬の食糧事情について見ていきましょう。Miklosi(2018)の記述を続けます。

 

Pariah dogs depend on human food resources-however, they are seldom provisioned willingly by humans, but rather fend for themselves. They live and feed mostly on the streets of cities and villages, or almost permanently encamped at environments that provide a constant supply of food-such as trash dumps. Human-provided food is available in a steady flow at these sites, which results in a stable population of feral dogs. However, the nutritional quality of this food is much lower than the meat-based diet of wolves. Pariah dogs adjusted to this specific niche with their smallish size-leftovers do not sustain large dogs and are a food source that does not need to be subdued by physical strength. Pariah dogs also seem not to hunt in packs.(「The Dog-A Natural History」(2018)、p36)

Pariah dogs(いわゆる野犬)は人間の食料資源に依存しているが、それが人間によって喜んで提供されることはほとんどないため、むしろ自ら確保している。彼らは主に都市や村の路上で生活し、ほとんどの場合、ゴミ捨て場など食料が絶えず供給される環境に住みついている。これらの場所では、人間が供給する食料が安定的に利用可能であり、野生の犬の個体数が安定する。しかしこの食品の栄養価は、オオカミの肉主体の食事よりもはるかに低い。Pariah dogsは体を小さくすることで、この特定のニッチに適応している-この栄養価では大型犬を支えきれず、またこれらの食事を得るためには体力を必要としない。Pariah dogsも群れで狩りを行わないようである。 

 

実はここが「野犬」と「ノイヌ」の違いなのです。完全に野生化したノイヌは体格も立派で、イノシシなどの野性動物を狩って食べています。対して人間の生活圏で生活している野犬は、食料のほとんどを人間に依存しています。例えば食品製造工場や小売店から排出される生ごみや、水産加工施設から排出される魚のあらなどを食べて生きています。摂取カロリーが少ないからかどうかは分かりませんが、総じてノイヌよりも野犬の方が体格は小さいです。

しかしあえて野犬に餌をやる人が存在します。Stray dogsは餌付けされ人慣れした犬であるといえますが、人慣れしていないPariah dogsに定期的に餌をやる人たちも存在します。一般的にその動機は「泥棒や他の野犬除け」(Miklosi、2018)ですが、日本においては動物愛護の観点から野犬に給餌する人たちがいます。また直接給餌しないにしても、食品工場の従業員が野犬が利用しやすいように生ごみを放置するといったケースもあり、地域トラブルの原因となっています。日本においてはゴミ捨て場や漁港などに生息する古典的な野犬よりも、人為的な給餌に依存する野犬の方が多いかもしれません。