野犬の生態学その3 繁殖

野犬の繁殖について、Miklosi(2018)はこう述べています。

 

Pariah dogs may live in groups of hierarchical organization and show territorial aggression against other groups. They reproduce all mirroring the steady food supply and the supportive climatic conditions. Pariah dog males are constantly pursuing available females, and the females may have two litters yearly. Pariah dog mothers nurture around- year their young only in the first 8-10 weeks, and there are no helpers (older siblings) or caretaking fathers. Therefore, when the pariah dog puppies are weaned, they immediately face strict competition with the adults for food, and most of them die in the first year.(「The Dog-A Natural History」(2018)、p36-37)

Pariah dogsは階級制のある集団に属し、他の集団に対して縄張り攻撃性を示す場合がある。彼らは安定した食糧供給と温暖な気候により、一年中繁殖している。雄のPariah dogsは常に妊娠可能な雌を追い求めており、雌は年2回出産している可能性がある。Pariah dogs の母親は、最初の8〜10週間のみ子供を育て、ヘルパー(兄弟姉妹)や世話をする父親はいない。そのため、Pariah dogsの子犬が離乳すると、すぐに成犬と食料を奪い合い、そのほとんどは1歳未満で死亡する。

 

日本の野犬においても、似たような繁殖形態であると考えられます。遺棄されたり逸走したりした、いわゆる「野良犬」は単独行動していますが(元々が単独ですから)、世代を重ねた「野犬」は、数頭の群れをつくって生活しています。野犬は関東以西の比較的温暖な地域に生息していますので、春に繁殖のピークがあるものの、年中繁殖しています。年2回の繁殖については確認していませんが、栄養状態が良い野犬であれば年2回の繁殖は可能であると思います。

この文献には「ヘルパーはいない」と記述されていますが、私は16匹(明らかに1腹分ではない)の子犬に授乳している野犬を見たことがあります。近くで別の雌犬が警戒していましたので、おそらくこの犬の子が混ざっているのでしょう。また、授乳中の雌犬の近くで警戒する雄犬(毛色から父親であることが推測される)を見たこともあります。私が勤務していた地域は野犬へのむやみな餌やりが問題となっていて、当然ながら野犬の栄養状態は良く、体格も中型から時には大型で、毛色のバリエーションも豊富です。とはいえ、決して人慣れしているわけでもありません。つまりインターナショナルなPariah dogsの定義に当てはまらない部分が多々あります。人間による餌やりに依存しながら人慣れしていない、限りなくStrayに近いPariahなのかもしれません。一部の行動学者によって、日本の野犬の特殊性が研究され始めていますので、日本の「YAKEN」が世界で注目される日が来るかもしれません。