野犬の生態について見てきましたが、まとめると下のとおりです。
・人的資源(食料、ねぐら)に依存して生活している
・小集団で生活し、栄養状態によっては年2回繁殖する
・離乳後の子犬は成犬との生存競争にさらされ、大部分は死亡する
つまり、人間の「おこぼれ」をいただきながら、人間社会の隅っこでひっそりと生活しているというのが野犬の本来の姿なのです。都市部で社会問題になるほど野犬が増えているという状態は、はっきり言って異常です。
食品系廃棄物が潤沢に排出されていない都市部において、多数の野犬が個体数を維持している原因は、むやみな餌やりしか考えられません。「むやみな」餌やりとは、野犬の生息地に、日常的・無計画に大量の餌をばらまく行為をいいます。痩せて弱った野犬に一時的に餌を与えるような行為を言っているのではありません。夜な夜な野犬の生息地に自動車で乗り付け、ドッグフードや食品廃棄物をぶちまけるような特殊な行為をいいます。
むやみな餌やりが野犬の個体数を増加させるメカニズムは、野犬の生態を見ればわかります。
・野犬の栄養状態が向上し、繁殖効率が高まる
・生存競争が緩和され、離乳後の子犬の生存率が上昇する
そしてむやみな餌やりの弊害として、野犬捕獲の妨害があげられます。通常、成犬は檻型のトラップで捕獲します。当然そこに食べ物を置きおびき寄せるのですが、十分に餌を食べている野犬は餌に釣られません。
むやみな餌やりをしている人たちにも言い分があります。「野犬は人間に依存して生きているのだから、給餌が必要だ。餌やりの禁止は野犬を餓死させるので動物虐待だ」と。例えば「西日本の野犬問題で有名な市」のようなレベルで野犬の個体数が増えてしまっていては、もはや人為的な給餌を行わなければ個体数を維持できないでしょう。むやみな餌やりを禁じることにより、個体数は劇的に減少するはずです(これが「虐待」にあたると主張する人たちには、そもそも野犬の個体数が増える原因を作ったのは誰かということを自省していただきたい)。
それに加え、野犬の個体数を減少させるには、人的資源を集中的に投入し、短期間で一定数の野犬を捕獲するしかありません。もちろん愛護者たちによる妨害行為も予想されます。彼らを納得させるには、これが決して「殺処分を前提とした捕獲ではない」ということをしつこいほど繰り返し広報するしかありません。偏った情報によって「捕獲された野犬は理由もなくガス室に送られ殺処分される」と信じて疑わない人たちがいまだに存在するのです。もちろん、性格的理由や健康上の理由により「譲渡不適」として殺処分を免れない野犬も一定数存在します。その際には、決して「理由なき殺処分」ではないということを証明するためにも、殺処分の理由とその実施方法を開示すべきです。そのためには、あいまいな基準による安直な殺処分を厳に戒めることから始めなければならないことは言うまでもありません。