なぜ野犬を捕獲しなければならないのか

野犬対策を考えるにあたって、そもそもなぜ野犬を捕獲しなければならないのかという疑問が生じてきます。捕獲しなければ殺処分の必要はありませんし、また野良猫は捕獲しないのですから、なおさらそう思われる方も多いでしょう。

野犬を捕獲しなければならない最大の理由は、狂犬病の予防です。現時点において、国内で狂犬病は発生していませんが、いったん狂犬病が国内で流行すれば、特に狂犬病予防接種を受けていない野犬の間では蔓延のおそれがあります。野犬が多数存在しているということは、狂犬病蔓延の原因となる、いわば爆弾を抱えているといえます。それを防ぐため、狂犬病予防法第6条において放浪犬の抑留について規定されています。これは狂犬病予防員(獣医師である、都道府県等の職員)に課せられた義務です。「してもよい」のではなく「しなければならない」のです。

狂犬病の恐ろしさについては、例えば日本獣医師会厚生労働省のホームページに詳しく書かれています。一言でいうと、人と動物の共通感染症対策の1丁目1番地ともいえる、重要な疾病です。なぜ重要かというと、

 

・狂犬病は人間を含む全ての哺乳類に感染する

・発症後に有効な治療法はなく、発症後の致死率は100%

・日本、オーストラリア、ニュージーランドなど一部の国を除き、全世界で発生している※

・全世界で年間5万人以上が狂犬病により亡くなっている

 

一言でいえば「致死率が高く、全世界で発生している」ということです。日本ではしばらく発生していない(海外で感染し、日本で発症したケースはあります)ので、多少「平和ボケ」しているところがありますが、例えば米国では野良猫から狂犬病が感染したという例もありますので、TNRも命がけです。コウモリを触るなどもってのほかです。

狂犬病ウイルスは、犬などに咬まれた部位から侵入し、神経を伝って脳に到達し発症します。そのため、人間の潜伏期間は1~3ヶ月といわれています。犬の潜伏期間は2週間~2ヶ月といわれています。日本において人間が犬に咬まれたら、飼い犬の場合、狂犬病予防員が2週間~3週間犬の検診を行います。その間に、咬んだ犬が狂犬病を発症しなければ、その犬は感染していなかったと判断されます。よって、咬まれた人も狂犬病の心配はないとされます。狂犬病の確定診断には、脳の組織の検査が必要です。つまり殺して脳を取り出さねばなりません。生きたまま置いて、狂犬病を疑う症状を示すかどうかを確認するほうが簡単です。もちろん検診を受けている間は、その犬は殺処分してはなりません。咬傷事故を起こした飼い犬については、飼い主から引取りを求められることが多く(本来は引取り拒否すべき案件なのですが、事故防止の観点から引取らざるを得ない場合もあります)、そのほとんどは譲渡不適と判断されるのですが、検診期間中は殺処分されることなく飼養されます。

 

※英国や台湾のように、狂犬病が動物にのみ発生している国や地域もあります。