狂犬病予防法第18条の2には、けい留されていない犬の薬殺について定められています。
都道府県知事は、狂犬病のまん延の防止及び撲滅のため緊急の必要がある場合において、前条第一項の規定による抑留を行うについて著しく困難な事情があると認めるときは、区域及び期間を定めて、予防員をして第十条の規定によるけい留の命令が発せられているにかかわらずけい留されていない犬を薬殺させることができる。(以下略)
ここでは、あくまでも薬殺は最終手段であると規定されています。その際には住民に対して周知しなければならないと規定されています。周知の方法については施行令第8条でこのように規定されています。
薬殺の手順については施行令第7条で定められていて、例えば午後10時から翌朝5時の間に実施する、毒えさには紙片でその旨表示する、予防員が毒えさの巡視や回収を行うと規定されています。また毒えさに用いる薬品は「硝酸ストリキニーネ」とされています(施行規則第17条)。私は硝酸ストリキニーネによる野犬の毒殺に立ち会ったことがありますが、犬は毒えさを食べてすぐに泡を吹き、四肢を硬直させながら速やかに死んでいきました。まだ動物愛護の意識が今ほど高くない時代でしたが、毒殺を快く思わない人から暴言を投げつけられた記憶があります。
注意すべきは、第18条の2で規定する「薬殺」は、狂犬病発生時の措置であるということです。平常時の野犬駆除を目的とした薬殺については、「睡眠薬等による野犬の駆除について」(昭和41年10月26日自治行第112号)でこう記述されています。
睡眠薬または劇・毒薬により野犬を駆除することを直接に規制する法令はないが、これが実施については、狂犬病予防法(昭和25年法律第247号)第18条の2の規定の趣旨からみて慎重にとりあつかうべきである。また、地方公共団体がこれを実施する場合、住民の権利を制限し、義務を課すものであれば条例による必要がある。
その後「犬の捕獲の徹底及び狂犬病予防法と条例の関係について」(昭和42年1月20日環乳第5005号)が発出され、目的達成のため最小限であれば、地方公共団体が平常時における犬の抑留や薬殺を条例で定めることは狂犬病予防法に抵触しないとされました。つまり、地方自治体が条例で定めれば、野犬の薬殺が可能ということです。国内で狂犬病が根絶された昭和32年以降においても野犬の毒殺が行われた法的根拠はここにあります。
狂犬病発生時の措置はいずれも都道府県知事が行うこととされていますが、必要があれば厚生労働大臣が措置の実施を都道府県知事に指示することができるとされています(第19条)。