日本の動物愛護管理行政においては、動物管理機関における動物の「行政都合の致死処分」も「獣医療としての安楽殺」も、まぜこぜにして「殺処分」と称しています。なぜそれが問題なのかという点については、これまでもしつこく述べてきたとおりですが、一応まとめておくと、
・獣医療として行われる安楽殺まで「悪」とみなされることにより、真に必要な場合の安楽殺をためらわせ、結果的に動物を苦しめることになる。
・両者の境界が不明瞭であることをいいことに、恣意的で安直な殺処分が横行している。つまりもっともらしい獣医学的理由がつけられ、「行政都合の致死処分」が行われている。
・恣意的で安直な殺処分に従事する公務員獣医師のストレスは甚大である。往々にして殺処分は「職階が下」の職員に押し付けられる。殺処分は上司からの「業務命令」のため断れない。
私は、獣医療としての安楽殺を認めたうえで、行政都合の殺処分を禁止することを提唱しています。それを実現するためには、安楽殺についての明確な基準が必要です。具体的基準については「地域の事情」もあるので各都道府県が定めるとしても、やはり国がガイドラインを示すべきです。その際に参考になると思われるのがIFAW(国際動物福祉基金)の安楽殺決定基準です。IFAWの安楽殺へのスタンスは以下のとおりです。
It is IFAW’s position that when it is apparent that the quality of life of the individual is, or will likely be, unacceptably compromised, and this cannot be remedied or prevented, IFAW regretfully accepts that euthanasia may be in the best interests of the animal.
IFAW has published euthanasia criteria to ensure animals are not euthanased indiscriminately. That is, animals are not euthanased except on the grounds of health, behaviour, inadequate guardianship or unavoidable inhumane death once all practicable alternatives to euthanasia have been ruled out.※
IFAWの立場としては、個体のQOLが容認できないほどに損なわれていることが明らかな場合、あるいは損なわれる可能性が高い場合であって、それを改善したり防止したりすることができない場合には、安楽殺が動物にとって最善の利益となる可能性があることを不本意ながら受け入れている。
IFAWは、動物が無差別に安楽殺されないように、安楽殺の基準を公表している。つまり動物は、健康状態、行動、飼い主による不適切な飼養、または非人道的な死が避けられないことを理由に、安楽殺に代わる現実的なすべての選択肢が除外された場合を除き、安楽殺されない。
IFAWの安楽殺決定基準については、ICAMの「The welfare basis for euthanasia of dogs and cats and policy development」(犬と猫の安楽殺と方針立案のための福祉基盤)に掲載されています。次回からはその内容について見ていきたいと思います。
※ICAM「The welfare basis for euthanasia of dogs and cats and policy development」,p14