「行動上の理由」および「不十分な保護」に基づく安楽殺

前回までIFAW(国際動物福祉基金)の安楽殺決定基準について見てきましたが、おそらく「行動上の理由」がわかりにくかったと思いますので補足します。基本的に「行動上の理由」のみで犬猫を安楽殺することはなく、常に「不十分な保護」とのからみで判断します。どういうことかというと、いくら犬猫が深刻な行動異常を示していたとしても、「不十分な保護」下におかれていない、つまりその動物自身のQOLが低下していなければ安楽殺の必要はないということです。問題になるのは、飼い主がその異常行動に耐えられず、暴力やネグレクト、遺棄などにつながる場合です。その場合は「不十分な保護」の観点から安楽殺を検討します。例えばIFAW※はこのような症例を示しています。

 

症例1 成犬の不適切な排尿

 

疾病の検査 

不適切な排尿を引き起こす可能性のある病気(例えば尿路感染症や尿失禁)について検査します。

 

病気がなく、飼い主が協力的な場合 

健康上の問題がなければ、飼い主の協力のもと、環境要因について追求します。例えば「季節性はあるか」「別の動物を飼い始めたか(マーキングの動機)」「人間の家族の増減によるストレス」など。それと同時に、飼い主による根気強いしつけを行います。その場合、予後は良好です。

 

病気がなく、飼い主が非協力的な場合 

飼い主が排尿に耐えられず犬に暴力をふるうような場合、犬は恐怖を感じ、不適切な排尿がさらにひどくなります。その場合「行動上の理由」と「不十分な保護」の両方の問題が生じます。レスキューしリハビリののち譲渡することが理想ですが、それができない場合には安楽殺が検討されます。

 

症例2 分離不安の若い犬

外出時に部屋中のものを咬みちぎってしまうため、飼い主はその犬を箱に閉じ込めています。飼い主の外出中、犬は一日中鳴き続け、近所に迷惑をかけています。

 

飼い主が協力的な場合 

飼い主が犬を助けるために時間を費やすことをいとわないが、何をすべきかわからない場合、飼い主が分離不安を理解し、問題を克服するために犬を訓練する方法を飼い主に教えるような専門家を紹介します。専門家を紹介できない場合であっても「箱に代わる快適な収容場所を提供する」「飼い主やその家族がもっと在宅できるかどうかを検討してもらう」「譲渡先を探す」などといった対応が可能です。これらの選択肢が失敗した場合にのみ、安楽殺を検討します。

 

飼い主が非協力的な場合 鳴き声がうるさいからといって飼い主が犬に暴力をふるったりすると、不安がさらに悪化し、犬が苦しむことになります。その場合「行動上の理由」と「不十分な保護」の両方の問題が生じます。レスキューし、適切に飼養できる人に譲渡することが理想ですが、それができない場合には安楽殺が検討されます。

 

ただし日本の現行法においてはペットのQOLよりも飼い主の所有権が優先されますので、レスキューや安楽殺の際には必ず飼い主の同意が必要です。個人的にはこの規定は改正されるべきと思っています。

 

※ICAM「The welfare basis for euthanasia of dogs and cats and policy development」,p28