特に頻繁に犬猫の安楽殺の判断を迫られるアニマルシェルターの場合、不適切な判断で安楽殺が行われてしまう場合があります。日本の動物管理機関においても、不可解な理由で犬猫が殺処分された事例が散見されます。例えば、
・首輪の付いた猫が即日殺処分された
・友好的な犬が「攻撃性あり」と判断され殺処分された
・譲り受けを希望している人がいる犬が殺処分された
という例があります。これを「単純ミス」や「伝達ミス」として説明することは簡単ですが、これは動物管理機関が慢性的に抱えている「決定疲れ」により合理的な判断が喪失した結果ではないかと私は考えています。
「決定疲れ」とは、重大な結果をもたらす決定を繰り返すことにより、合理的な判断が損なわれる現象をいいます。それはトレードオフが大きいほど顕著になります。トレードオフとは、何かを得るために別の何かを失う、相容れない関係のことをいいます。有名な例として「裕福な人よりも貧困者の方が衝動買いが多く、無駄遣いが続くため貧困から脱することができない」という言説が挙げられます。貧困者にとって、買い物によりお金を失うことは裕福者よりも大きなトレードオフを伴うため、それが続くと正常な判断ができなくなるというのです。
犬や猫を殺処分するという決定も、命を奪うことですからそれは大きなトレードオフです。「この動物を殺処分するべきか」という判断を繰り返していると、次第に正常な判断ができなくなります。具体的には、深く考えず従前の例に倣う傾向が顕著になります。つまり動物の疾病や性格を言い訳にした安直な殺処分が行われる、また逆に苦しんでいる動物をずるずると「飼い殺し」にしてしまうといったことになります。
アニマルシェルターにおいて「決定疲れ」を防止するためにはどうすればよいか、ウィスコンシン大学シェルターメディスンサイトの「Developing Intake and Adoption Decision Making Criteria」(2019)※にはこう書かれています。
・「決定疲れ」にはブドウ糖が効果的なため、午前中または休憩後に決定する
・一人が続けて決定せず、交代する
・より穏便な代替案を用意する
※例えば、安楽殺の代わりにSNR (shelter-neuter-return)、受入れ拒否の代わりに受入れ延期など
・内部で話し合い、あらかじめ明確な基準を定めておく
あらかじめ明確な基準を定めておけば、その都度の決定をしなくてもよいので「決定疲れ」を軽減することができますし、集団で基準を定めることにより、決定の責任を分散できるという二次的効果もあります。
※https://www.uwsheltermedicine.com/library/resources/developing-intake-and-adoption-decision-making-criteria