TNRについて考える ②TNRと保護活動の違い

TNRは「野良猫の人道的な個体群管理」の手段です。避妊去勢手術によって野良猫の繁殖を防ぐとともに、繁殖行動を抑制することで尿スプレーや鳴き声などの迷惑行為も防ぎます。また縄張りを守らせることにより、他の猫の流入を防ぎます。野良猫を駆除することなく、人道的手法で野良猫を管理し共存することによって生活環境の保全を図ることがTNRの目的です。野良猫の「No-kill」を目指す保護活動と、野良猫による迷惑行為を減らすための環境保全活動を両立させているのがTNRであるといえるのかもしれません。つまり、TNRが純粋な保護活動ではないことを認識する必要があります。

TNRの対象は、健康で自活可能な野良猫です。それ以外の、例えば

 

・自活不能とされる、飼い猫や幼齢猫

・健康上の理由で、手術やリターンに耐えられない猫

 

については当然のことながらTNRの対象にはなりません。これらの猫については、自治体や保護団体等による「保護」の対象となります。またTNR目的で捕獲され、避妊去勢手術のための検診で病気が判明し、保護に回される猫もいます。またTNR目的で捕獲された健康な野良猫であっても、人慣れしているような場合はリターンせずに譲渡することもあります。これもTNRから保護に移行する例です。

米国において、TNR類似活動のひとつとしてSNR(Shelter- Neuter-Return)が実施されています。これはRTF(Return-to- Field)やFeral Freedomとも呼ばれますが、いったんシェルターに収容した野良猫のうち、性格的に譲渡不適と判断されたり、シェルターのキャパシティ不足などによる安楽殺対象となったものについて、避妊去勢手術後にリターンすることをいいます。一見TNRと変わらないように見えますが、SNRは「No-kill」に主眼を置くため、TNRとは区別されます。また避妊去勢手術後の野良猫を元の場所ではなく他の生息適地にリリースすることをTNRel(Trap-Neuter-Release)といいますが、これも野良猫の保護を目的としていますので、TNRとは区別されます。

米国フロリダ州ヒルズボロ郡の獣医師団体であるHAHF(Hillsborough Animal Health Foundation)がTNRの代替手段として提唱している「AWAKE!」はTENVAC(Trap-Evaluate-Neuter-Vaccinate-Adopt-Contain)すなわち野良猫を捕獲し、避妊去勢手術ののちに譲渡できるものは譲渡し、譲渡できなかった野良猫はフェンスやネットで野外から隔離された「サンクチュアリ」で放し飼いにするというものですが、TNRの代替というよりは「No-kill」シェルターの異形であるといえます。

TNRに通常用いられる避妊去勢の術式は「卵巣子宮全摘出術」や「精巣摘出術」ですが、「子宮摘出術」や「精管切除術」を用いてあえて性腺を温存し、寿命を縮めることにより効果的に猫の個体数を減らそうというTHVR(Trap-Hysterectomy- Vasectomy- Return)が近年提唱されています。しかし性腺の温存は、猫の性行動の温存をも意味するため、野良猫による苦情解消にはつながりません。

TNRを生活環境保全対策としてとらえると、様々なモヤモヤが一気にクリアになります。