TNRとは「野良猫を捕獲して殺すことに代わる、人道的な野良猫の個体群管理の方法」であると、私は何度も書きました。しかしその前段の「野良猫を殺さないこと(No-kill)」のみを強調してしまうと、人々の受け取り方が変わってきます。
Becky RobinsonがTNR推進団体であるAlley Cat Alliesを設立した動機について、ホームページにはこう記述されています。
Deluged by requests for help, and concerned for cats routinely killed by animal control agencies and shelters, Robinson founded Alley Cat Allies.(https://www.alleycat.org/about/history/)
支援要請が殺到し、また動物管理機関やシェルターによって日常的に殺される猫を心配して、RobinsonはAlley Cat Alliesを設立しました。
Alley Cat AlliesはTNRにより野良猫の数が減り、また野良猫による苦情が減るとしていますが、その本筋はNo-killです。こういう記述もあります。
When it comes to cat advocacy, Alley Cat Allies is working in communities to champion low-cost spay and neuter policies and programs, as well as lifesaving Trap-Neuter-Return (TNR) and Shelter-Neuter-Return (SNR).(https://www.alleycat.org/about/)
猫の保護に関しては、Alley Cat Alliesは地域において、低コストの避妊去勢手術の方針と事業、および命を救うTrap-Neuter-Return(TNR)とShelter-Neuter-Return(SNR)を推進しています。
「TNRとSNRで猫の命を救う」と明記されています。またSNRはシェルターで安楽殺対象になった野良猫をリターンすることですから、明らかにNo-killの発想です。No-killを目指すこと自体は悪いことではありませんが、ことさらそこを強調してしまうと、TNRの意義や目的がぼやけてしまいます。何よりも私が恐れるのは、No-killを前面に押し出すことによって、TNRが「一部の猫好きによる、猫好きのための活動」に貶められるおそれがあることです。
「野良猫の命を守る」と言ってしまうと、「野良猫の命より人間の生活の方が大事」という反対意見が必ず生まれます。日常的に野良猫の被害に苦しんでいる人たちがこのような活動に対し快く思うわけがありませんし、ましてや「猫をしばらく野に置きますから、この子が死ぬまで我慢してください」なんて言われた日には、怒り心頭に発するでしょう。しかしながら彼らのほとんどは、野良猫を捕獲して殺してほしいと思っているわけではありません。野良猫による迷惑行為がなくなれば、それでいいのです。TNRはそこをうまく擦り合わせて、野良猫が迷惑をかけることなく地域住民と共存していくための方策であるはずです。
たとえNo-killが本意であったとしても、そこをぐっと飲みこみ、「生活環境保全」の大義からアプローチすれば、TNRはもっと社会から受け入れられる存在になるはずだと私は思っています。それを体現したのが、世界に誇る(!)日本型TNRMである「地域猫活動」です。
※一応フォローしておくと、Alley Cat Alliesは、人道的に野良猫の被害を防ぐための方法についてのパンフレットを作っています。私は仕事で使うためにこのパンフレットの和訳に取り組んでいますので、完成したらご紹介します。