TNRについて考える ④TNRと「地域猫活動」の違い

まだ日本においてTNRという言葉が一般的ではなかった1980年代、すでに「日本捨猫防止会」によってTNRが試みられていました※1。2000年には東京都千代田区において、行政とボランティアが協働した「飼い主のいない猫」対策が始まりました※2。

 

野良猫問題を、地域の問題として自ら解決していこうという試みは、1999年に当時横浜市職員だった黒澤泰により「地域猫」と名付けられ※3、黒澤氏の積極的なメディアへの露出により、「地域猫」という言葉は一気に市民権を得ることになりました。

黒澤氏が常務理事を務める(公財)神奈川県動物愛護協会によると、「地域猫活動」は「飼い主のいない猫のいる地域住民が主体となり、不妊去勢手術や給餌、清掃などにルールを決めて管理しトラブルを減らす活動のこと」※3と定義されています。「地域住民が主体的に実施するTNRM」ともいえます。しかし「地域猫活動」はTNRM類似活動ですが、厳密にいうとTNRMではありません。私は「地域猫活動」を「TNRM亜型」と呼んでいます。その違いについて興味を持たれた方はぜひhttps://kspca.jp/noraneko/を熟読していただきたいのですが、私がここで申し上げたいのはただ1点です。

 

Alley CatAlliesが推進する米国のTNRがNo-killを前面に押し出しており、そのことがTNRを「一部の猫好きによる、猫好きのための活動」に貶めるおそれがあることは前回述べました。「地域猫活動」は、野良猫による苦情を減らし、野良猫との共存を図ることを目的とし、地域の生活環境保全活動として地域住民が主体的に参画するという、TNRの原点に立ち返った画期的な発想であるといえます。

 

環境省は平成22年(2010年)に「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン」において初めて「地域猫活動」について触れています。その考え方はここにも反映されています。

 

地域猫活動は地域住民と飼い主のいない猫との共生をめざし、不妊去勢手術を行ったり、新しい飼い主を探して飼い猫にしていくことで、将来的に飼い主のいない猫をなくしていくことを目的としています。ただし、実際に数を減らしていくためには、複数年の時間を必要としますので、当面は、これ以上猫を増やさない、餌やりによる迷惑を防止するなどを目的としています。地域猫活動は、「猫」の問題ではなく「地域の環境問題」としてとらえ、地域計画として考えていく必要があります。「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン」16p

 

しかし環境省が乗っかってきたことにより、一部自治体の、そのまた一部の住民による主体的な活動として実施されてきた「地域猫活動」がモデルケースとされ、しかも「地域猫」が環境省で定義付けられることにより、地方自治体における「地域猫」と「地域猫ではない地域の猫」の扱いに差が生まれてきたのです。

 

※1 日本捨猫防止会小冊子「私達の目標」より

※2 これがきっかけになり、翌年にはボランティアの連合体としての「ちよだニャンとなる会」が発足した。 https://www.chiyoda-nyan.org/about/index.html

※3 https://kspca.jp/noraneko/