TNRについて考える ⑤「地域猫活動」の制度化

平成22年に環境省から出された「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン」において、「地域猫活動」が紹介されました。ただしこれをもって各自治体に「地域猫活動」を推進するよう求めたわけではなく、各自治体の業務である「飼い主のいない猫」対策のひとつの方策として提示された「技術的指導」です。環境省は各自治体に「地域猫活動」を紹介し「一部の自治体は始めていますよ」とプレッシャーをかけてきますが、「実際にやるかどうかを決めるのは各自治体なので我関せず」という立場です。

とはいえ「地域猫活動」が環境省公認になったことで、各自治体も無視するわけにはいかなくなりました。最低限の対応として、地域住民から「地域猫活動を始めたい」と相談があった際に、その手順や実施方法などを定めたガイドラインが、各自治体で作成されています。一部の自治体ではそれに加え、「地域猫活動」に対する財政的・技術的支援について定めています。しかしそれは「正式な」地域猫活動に対する支援であって、支援を受けるには「正式な」地域猫活動を始めなければなりません。何をもって「正式な」地域猫活動とするかについて、各自治体は「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン」の記述、特に「地域猫」の定義を拠り所にしています。

 

※地域猫とは

地域の理解と協力を得て、地域住民の認知と合意が得られている、特定の飼い主のいない猫。その地域にあった方法で、飼育管理者を明確にし、飼育する対象の猫を把握するとともに、フードやふん尿の管理、不妊去勢手術の徹底、周辺美化など地域のルールに基づいて適切に飼育管理し、これ以上数を増やさず、一代限りの生を全うさせる猫を指します。

「住宅密集地における犬猫の適正飼養ガイドライン」16p

 

ウチの自治体もそうですが、この定義に当てはまる「地域猫」のみが公的支援の対象になっています。いやらしい言い方をすると、正式な「地域猫活動」にのみ公的支援を行うというインセンティブをちらつかせ、そこに誘導しようとしているのです。その魂胆については、次回に説明します。

しかし現実問題として、時間をかけて「地域の合意」を取り付け、「正式な」地域猫活動として公的支援を申請し「ではまずTNRから始めましょうか」なんてことをやっていては遅いのです。その間にも子猫は続々と生まれています。地域住民の認知と合意を得るための活動と並行して、TNRだけでも先行して始める必要があります。インセンティブをちらつかせるようなセコい手段ではなく、地域猫活動の「種」であるともいえるTNRを支援することが、結果的に「地域猫活動」を推進する近道であると私は考えています。